第18話 先輩の背中
朝が、少し涼しくなってきた。
放牧から帰ってきて、坂路ダッシュが、楽になっていることを実感する。
リフレッシュしたおかげかなぁ。
エースは、予定していたレースを変更して、本番直行となったらしい。
俺は……丸くなってないよね?
あんちゃんは、ここのところ、勝利を積み上げて騎乗が増えたみたい。
忙しくしている。
毎日来ていた以前と比べて、厩舎にいない日が増えた。
今日もいない。
最近は、ナツさんという人が来るようになった。
ナツさんは障害騎手を目指しているんだって。
今までは、あんちゃんの都合が悪いときは、ねだっても走らせてもらえないことがあった。
ナツさんは、調教にとことん付き合ってくれた。
「放牧で、スーやんのスタミナが、さらに上がったみたいですね。よりジャンプに適した体つきになってきた」
ムキムキマッチョになってきたってことかなぁ。
レースが近づいてきているのを感じる。
今日は、ボーイと合同の練習だ。
「坊主、オープンも勝ったし、もうお前は俺と同格だな」
「同じレースに出ることできる?」
ボーイと同格になったんだ。
「ああ、タイミングが合えばな……」
ボーイが顔を伏せる。
後輩に追いつかれそうなのが、くやしいのかな?
でも、追いつきたい。
「一緒のレースになったら、ボーイに勝つつもりでいくよ!!」
ボーイは、鼻で笑った。
「まだ、早い……くもないかもな」
ボーイは一度下を向いた。
一呼吸を置いて、
「坊主、俺は次のレースで引退することになった。おそらく、一緒にレースにでる機会は……もうない」
そっかぁ。引退なのかぁ。
俺がボーイの顔を見つめていると
「俺だって、9歳なんだから、しゃーないだろうが!!全盛期じゃねぇ!」
……いや、何もいってないです。
「ほら、調教行くぞ」
俺は、慌ててボーイの背中を追っていった。
レース当日、俺はパドックで、ボーイを見つけた。
ボーイも俺に気づいたようだ。
「坊主と一緒とはな。間違っても、俺に花持たせようなんてするなよ!重賞級の実力を見せてやる!!」
ボーイは、にやりと笑った。
花なんて、持たせる気ないよ。俺はいつも全力だ。
俺はしっかり前を向いて、パドックを歩いた。
「スーやん、気合はいっているね。重賞ってわかっているからかな」
横でおっさんが、やさしく話しかけてきた。
パドックが終わると、あんちゃんが駆け寄ってきた。
あんちゃんも、俺と出会ったころに比べて、たくましくなったなぁ。
コースにいつもの障害より大きな生垣と竹柵があることに気づいた。
重賞だと、障害もグレードアップするんだな。
ジャンプするイメージをしっかりと考える。
大丈夫。飛べる。俺は飛べる。
ゲートに誘導されていく馬は、ボーイと同じような雰囲気の馬が何頭かいた。
ボーイが先に誘導されて入っていく。
一瞬、ボーイと目が合った。
俺がゲートに誘導されて、すぐに――ガシャン!!
扉が開く。
俺は飛び出した。
ボーイは、俺の数頭前を走っている。
連続した障害が迫ってくる。
ボーイの飛越は綺麗だ。
正確に無駄なく飛越する。俺もそれを追っていく。
差は詰められない。むしろ開けられた気がする。
コーナーを回って、スタンド前に出る。
歓声があがる。
水郷
大生垣
大竹柵
大生垣
連続で4つの最大の難所だ。
観客席の前でこの難所を超える。
エンターテイメントだね。
ボーイは、水郷でも水しぶきひとつあげない。
俺だって、今なら同じことができるよ!
俺とボーイの間には、誰もいない。
ボーイを追いかける。
スピードが上がっていくのを感じる。勝負所が近いんだ。
障害を飛び越えながら、ボーイの背中を見つめる。
狭いカーブの中、生垣を飛ぶ。
コーナリングは、前世からの経験があるんだ。
少しだけ、ボーイの背が近づいた。
直線に入った。ボーイとの間には、体3つ分ぐらいの差がある。
障害を飛んだボーイのスピードが上がる。
最後の障害なんだね。
俺も加速して飛ぶ。
ここからは、スピード勝負。
スタミナだけはあるんだ。若さみせつけてやるよ。
あと体2つ分……。
俺は減速することない。加速はできなくても全力は維持できる。
あと体1つ分……ボーイ待ってろ!!
体半分……!!ゴールも近い。
大外から、俺とボーイを抜き去る馬体が見えた……。
ボーイと俺は、ゴール板を駆け抜けた。
「最後にかわされちゃったね。スーやん……。」
あんちゃんが言った。
俺はボーイを見る。
ボーイは震えていた。
「俺が、レースに勝って有終の美を飾れると思ったのに――!!」
ボーイは吠えた。
エースの声より大きな気がした。
俺は3着だった。
検量室前で、おっさんがクッキーをくれた。
「牧場で気に入っていたと聞いたので作ってみました」
おっさんは、にこにこ笑った。
ほんのり、リンゴの味がするクッキーが口の中で溶けていく。
最後までボーイに勝てなかったな。
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本人は☆よりリンゴを要求すると思うので。




