第14話 俺がしっかりしなきゃ
日差しが暖かく感じる日が増えてきた。
厩舎に居残りだったエースも近々出走らしい。
今度こそ、体が一回り大きくなっている気がする。エース、きっと大丈夫。
暴君の兄がいて大変なエースの子分は、海外に行くと聞いた。
地元を追われるなんて、暴君はどんなひどいことをしたんだろうか。こわいなぁ。
この時期の前世は何をやっていたのか、最近はまったく思い出せなくなってきた。
調教頑張ってるからね。毎日ぐっすり。
騎手が乗っていない馬、空馬の対処について、頼れる先輩のボーイに相談もしてみたんだ。
「アクシデントの時は、安全が一番だ。無理をしてはいけない。」
ボーイは真剣な顔だった。
「空馬から目を離さない。それと、周囲に危険を知らせる」
俺も真剣に聞く。
「ジャンプするときは、空馬と一緒に飛ばないようにする。一番危険だからだ」
ボーイは俺と目を合わせて、続ける。
「次のレースで勝てばいい。『全人馬共に無事に飛越』それが理想だ。」
ボーイはちょっとだけ悲しそうな顔をした。
今日の調教もあんちゃんが騎乗している。
最近は、ノブさんもタナカさんも来ない。
忙しいのかな。それとも、俺に次の騎乗する人が見つからないのかなぁ。
しょんぼりした気分になる。調教後のあんちゃんがくれたおやつもニンジンだった。
厩舎に戻った俺に、おっさんがリンゴ味の飴くれた。おっさん大好き。
あんちゃん以外の騎手に乗ってもらうこともないまま、レースの日がやってきた。
おっさんとパドックを回りながら、誰が乗るのか俺は不安な気持ちでいっぱいだった。
ずっと、キョトキョトしていたと思う。
「今日は、落ち着きがないね。スーやん。」
おっさんが優しく声をかけてくれた。
カイザーの時は、気にもしたことなかったのになぁ。
みんなにそれぞれの騎手が駆け寄ってくる。
俺に駆け寄ってきたのは、あんちゃんだった。
え?え?今日、もしかして障害じゃなかった?
話のネタ、準備してないよ―――!!!
コースに出ると障害があった。
そっかぁ、あんちゃんと障害レース走るんだね。
あんちゃん、しっかり道覚えておいてね。
新馬戦の時のように、あんちゃんの体に力が入っている。
俺がどうにかしなきゃと気合を入れた。
ゲートに入り、スタートの時をじっと待つ。
前回と同じ場所だ。だけど今回は内枠だ。
俺は集中した。ガシャン。スタートダッシュを決めた。
鼻を取ることができた。いい感じ。
最初の生垣を先頭で飛び越えていく。
直線に入ると歓声があがる。よし、悲鳴は上がってない!
水濠、生垣と続けて飛んでいく。飛ぶたびに後続を離していく。
コーナーに入るとバンケットが待っている。
俺は一気に下って駆け上る。
その先の生垣を連続で二つ飛ぶ。今一人旅できてるよ。
再び、バンケットを越え、スタート地点が近づいてくる。
生垣、スタンド前を通過、今日は全人馬無事だ!!
何事もなく、前回と同じコースを抜けていく。
あんちゃんから、外側のコースへ行くように指示がでる。
ん?道間違えてない??
困惑した俺は、少しスピードを落としてしまった。
そのせいで抜かされる。1頭、2頭。
あ、そっちにいくのー!あんちゃんが正しかった。
慌ててスピードを上げる。
緩やかなカーブのコーナーを回り、俺は前の馬を追っていく。
小回りじゃないから、外側に膨らんでくれない。俺が追いつく隙がない。
直線に入ってすぐの、竹の障害を飛ぶ。障害のおかげでちょっとだけ、差を詰めることができたが、まだ届かない。
ゴールが近い。必死に坂を駆け上る。前の馬の脚は鈍らない。
結局、その差は埋まることがないままに、俺はゴール板を走り抜けた。
俺は、あんちゃんを信じ切れなかった。
今日、負けたのは俺のせい。
俺は、あんちゃんの腕にすりすりと顔を寄せた。
あ、鼻水つけちゃった。
俺は3着だった。
検量室前で、おっさんがニンジンをくれた。
ポリポリ……。しょっぱい気がした。鼻水かも。
あんちゃん、ごめんね。次はちゃんと信じるから。
ちなみに、あんちゃんはこの時点で、障害未勝利戦に5戦ほど騎乗しています。
スーやんは知りません。
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本人は☆よりリンゴを要求すると思うので。




