閑話 一歩先を走る君
オレは、平地と障害を両立できる騎手になると決めた。
それから毎日ぎりぎりまで、居残ってトレーニングをしている。
うつらうつらとしながら、夕食を取り、ベッドに倒れ込む。
気づけば朝だ。出走馬の調教以外は、スーやんの調教の見学だ。
ノブ先輩は、なるべくオレに騎乗させ、アドバイスをくれる。
最初、嫉妬してひどい態度とってしまった。
後に謝罪に行った際に、ノブ先輩は、
「それだけ、スーやんが好きで競馬が好きってことだよね。それに騎手は負けん気が強くなくちゃいけない。」
笑って許してくれた。ただし、こう付け加えられた。
「礼儀と義理は大事だから、それだけはちゃんとできてえらいよ。あと特に障害騎手は人数が少ないから、助け合いが大事なんだ。」
「肝に銘じます。そして先輩を尊敬します。」
先生にオレの気持ちを伝えて相談した。
「アキ、両立はきびしい。だがお前の頑張り次第だ。初戦はノブ君に依頼する。あとはお前の成長によっては、障害でスイートポテトに乗ってもらうか考える」
「ありがとうございます!!!」
先生はちょっと笑った後、すっと目を細めて、
「ただし、騎乗依頼を受けている他の馬の手を抜くようなことだけは許さないからな。」
「はい!!」
平地でさえ、オレはまだまだ未熟だ。スーやんも頑張ってる。オレも頑張らなきゃ。
スーやんは、障害で1勝を挙げた。オレは、他の競馬場にいてその場にはいなかったけど、嬉しさとともに焦りを覚えた。
大晦日から元旦にかけて、香川の実家に帰った。
本来ならギリギリまで厩舎の仕事があるのだが、実家が遠いということで先生から早めに休んでよいと許可をもらったのだ。
父がスーやんとのレースの動画をテレビに映し出して親戚に見せているところだった。
親戚の子供たちが、「すうううやん」って変顔をまねし始める。
叔母が、これあのお馬さんにって大量のニンジンが入ったダンボール箱を渡してきた。
持って帰るの大変だったけど、家族の気持ちが嬉しかった。
スーやんは、俺のニンジンより、大川さんのキャンディのほうが喜んでいた。
負けたと思った。
短い正月休みを終えて、スーやんの次走のレースにノブ先輩が騎乗しないことが決まった。
先約があったそうだ。オレはチャンスと思った。
それなのに……。
スーやんの次走は、調教でオーシャンボーイに乗っていた田中さんが騎乗する―――。
騎乗前にスーやんの調教を田中さんが行うことになった。
なんでだよ。オレじゃダメなのか。
スーやんがオレを心配したのか、鼻先でつついてくる。
オレは、スーやんの顔を抱きしめた。
「アキくん」
ノブ先輩にたしなめられ、オレはスーやんを離して、田中さんに手綱を渡す。
本当は渡したくない。
スーやんは、俺を振り返って見ている。
スーやん……。どうしても見ていられなくてオレはその場をそっと離れた。
厩舎に戻ると先生がいた。
親ともいえる先生だけど、今日は顔も見たくない気分だった。
「お疲れ様です」
小さな声であいさつをして離れようとしたオレに先生は、
「アキ、すまなかったな」
……
「スイートポテトが未勝利のうちに、お前を騎乗させるつもりだった。」
黙っているオレに先生は続ける。
「お前は斤量の恩恵があるから、お前の障害レースのデビューは未勝利戦にするつもりだった。」
ああ……オレ、スーやんに置いて行かれちゃったのか。
うなだれるオレに先生は、
「スイートポテトではないが、障害の未勝利戦で他の馬に乗ってみないか?」
他の馬?
「幸い斤量の恩恵があるから、ノブ君の推薦もあって騎乗依頼を出してもらえる。」
スーやん以外の馬で障害?オレ、障害に乗りたかったのか、スーやんに乗りたかったのか。
自分の気持ちがわからなくなってくる。
オレは騎手で、これからもたくさんの馬に乗っていく―――スーやんに固執しちゃいけない。
「そこで経験を積んでから、スイートポテトに乗れ。」
先生がオレの肩を軽く叩く。
「しっかりしないと、スイートポテトに置いていかれるぞ。」
オレが、スーやんに置いて行かれる。
そっかぁ、オレ、スーやんに追いつかなきゃいけないのか。
「先生!障害の騎乗依頼受けさせてください!!」
「アキ!つば飛んできた!!」
思わず先生に詰め寄ってしまった。先生の焦った顔を初めてみた気がする。
「先生。自主練習いってきます!!!」
こうしちゃいられない。スーやんに追いつかなきゃいけない。
※ちなみにスーやんは、最後まで「あんちゃん、おなか痛いのかな」と心配していました。
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本人は☆よりリンゴを要求すると思うので。




