第13話 ノブさんとの対決
レース前のコースを見て回りながら、俺はここ数日を思い返していた。
きっと調教でノブさんが、来なくなり、タナカさんと調教するようになったのは、この日のためだった。
そういうことだったのか、と俺は理解した。そして冷静に考えた。
ノブさんは俺のクセを知り尽くしている。
でも、それは俺にとって不利なことではない。
タナカさんは、ジャンプするときのフォームをすごく重視する人だ。
ここ1~2週間、俺のフォームをタナカさんは、徹底的に調整してきた。
最初はやりにくいと感じたけど、ジャンプするたびに、少しずつ違いが出てくるのがわかった。
飛んだあとのロスが減っていく。ボーイの正確な飛越は、こうやって作られたのだ。
ボーイの「障害は、正確に飛べるようになれ」と言われた意味がよくわかった。
すでに俺はノブさんが知ってる俺じゃない。
ゲートに入って、すぐに扉が開く。ガシャン……。
スタートはしっかり決めた。だけど、大外から先頭をとるのはきびしく、俺は7~8番手ぐらいになった。
俺の少し前にノブさんが乗る馬がいる。それを見ながら走る。
最初の生垣を飛ぶ。スタンド前の直線に入ると観客の歓声が、いつもより大きく聞こえた。
水濠を飛ぶ。水しぶきが飛ばない。そのまま、連続で生垣を飛ぶ。
ここで俺はノブさんが乗る馬をかわした。正確に飛ぶことで、速さがなくても追いつくことができる。
平地にはない、ジャンプのテクニックで挽回できる。
障害レースは、俺にできることが多い―――。
1コーナーを回って、次のコーナーには、以前も苦しめられたバンケットが立ちはだかる。
毎日、坂路でしっかり鍛えたんだ。前よりずっと苦しくない。
一気に下り、急坂を駆け上がる。ここでもまた、前の馬をかわしていく。
直線に入り、生垣を飛ぶ、もうひとつ生垣を飛ぶ。
障害があればあるほど、俺に有利になっていく―――。
スタート地点が見えてきた。おそらくあともう一周走るはず。
ちょっとだけ、竹が生えてこないか気になった。
最初の生垣を再び飛び、スタンド前に戻ってきた。歓声が上がった……悲鳴?
レースに集中しなきゃ。
「右気をつけろ!!!!」
誰か騎手の大声が聞こえた。タナカさんが俺を左に寄せ、手綱を引く。
なに?!
右から抜かれた。え!?
騎手がいない????
俺を抜いた馬には騎手が乗っていない。
落馬したのか?空馬が生垣を飛び越えていく。続けて俺も飛ぶのだが、タナカさんはスピードをあげさせない。
空馬が左右にふらふらとして走っている。
どうすればいいんだ?俺はなんとか生垣を飛んだ。
初めての経験に俺はパニック状態だ。カイザーの時は、一人旅だったから、こんな経験したことがない。
空馬の前を走ることができれば、こんなことなかったのか――――?
ノブさんが乗っている馬が、空馬に近づいていく―――。
ノブさん危ないよ!!
ノブさんは空馬を、内ラチ側に閉じ込めるように並走し始めた。
封じ込めた?空馬はすぐ横にノブさんがいるから、ふらふらしなくなった。
そのまま、バンケットを越え、コースは外側のダートに向かっていく。
空馬はそのまま、芝のコースを走り去っていった。
安心したのも束の間、タナカさんが合図を出す。
もうすぐゴールだ!!俺は全力で前の馬を追いかける。
きつい。トラブルでスタミナを消耗しすぎているんだ。
「スー、頑張れ頑張れ!!!行け―――!!」
タナカさんが励ましてくれる。前の馬との距離が縮まらない。
追いつくことなく俺はゴール板を駆け抜けた。
俺は8着だった。
検量室前で、おっさんがニンジンをくれた。
あんちゃんのお土産かなぁ。ポリポリ……なんだか苦みを感じた。
前世が最強馬でも、知らないことってあるんだなぁ。




