第10話 障害3戦目
朝が冷え込むようになってきた。
重賞に出走したエースは、惨敗したらしい。
ぽっこりおなかだったもんね。次のレースまで絞られるらしい。
前世の俺は、走るのに適した体形を維持できていたのにと思った。
前走のレースはきつかった。
俺はスタミナとパワーをつける必要性を感じた。
調教はノブさんの日もあるけど、あんちゃんが乗る日もある。
軽めの調教で終わらせようとする二人に「まだ走りたいアピール」を繰り返した。
前世では考えられないぐらいの調教をこなしていると思う。
でも、まだまだ足りない。
目指せ!ムキムキマッチョ!
今日は久しぶりにボーイと一緒になった。
俺は気になったことを聞いてみることにした。
「レースの途中に障害の竹生えてくるよね?あれどうやって見つければいい?」
「坊主、コースに竹が生えてくるわけないだろう。」
ボーイは鼻を鳴らした。
「でもいつの間にか増えてるよね?」
「……増えてるな」
「なんで?なんで?」
「……」
ボーイはしばらく黙ったあと、
「調教に行くぞ」
きびすを返していった。知らないんだな。
俺は竹が生えてくる説を推したい。
再び障害レースに出走する日がやってきた。
今度で3戦目だ。ボーイは初勝利まで5戦したって言っていた。
俺は何戦かかるのかなぁ。
パドックが終わり俺はノブさんを背にコースに出る。
今日も竹が生えてくる傾向があるのか、しっかり確かめなきゃ。
砂地と芝の両方を走るようだ。
ノブさんが、その境目を必ず確認するように促してくる。
確かにいきなりだと戸惑っちゃうもんね。
ノブさんにコースを誘導される。ラチに沿って移動していない。
なんかちょっと複雑そうなコースの気がする。
道間違えないように気を付けなきゃね。
スタート地点に向かうノブさんと俺の前に一緒に出走する1頭が立ちはだかった。
にらまれた??
「マル。今日は君に乗ってないけど、よろしくね」
ノブさんが話しかけてる。知り合い。
マルと呼ばれた馬がずんずんと俺に近づいてくる。近いよぉ。
「なんでお前にノブさんが乗ってるんだ?!」
マルの騎手があわてて、手綱を絞る。
「こいつ焼きもち焼いてるみたいですね。レースに影響しなきゃいいけど」
マルの騎手は苦笑いしながら、俺からマルを離してつれていく。
「スーやん。みんなずっと一緒だったらいいけど、人間の事情って馬にはわからないね」
ノブさんは、眉をさげながら俺の頭を撫でた。
カイザーだったときは、騎手なんて誰でもいいと思っていた。
ムチを使わない奴だったらいい。余計なことしなければいい。
誰が乗っても同じだと思っていた。背中に荷を乗せているだけだ―――。
今の俺は、ノブさんやあんちゃんと一緒に走りたいと思っている?
ノブさんが一緒だと障害は怖くない、あんちゃんだとちょっとだけ怖いけど。
俺が勝ったら喜んでくれる人がいる。
カイザーの時も喜んでくれた人いたのかなぁ。
さて、レースに集中しなきゃ。
ゲートに入って開くのをじっと待つ。
マルの視線を感じた。
がしゃん。俺はいつものように飛び出した。
砂地からまっすぐに芝に向かっていく。マルが俺に被せるように寄せてきた。
芝に変わってすぐに、竹の生えたハードルと、威圧感のある生垣2つが連続してある。
竹は固めのブラシ、生垣の先っぽはやわらかいブラシ!!ボーイの言葉を思い出しながらひるまずに超えていく。
マルが、バランス崩した!
すぐに立て直しているようだ。よかった。その隙に横をすり抜ける。後ろから鋭い視線を感じた。
そのままコーナーに入る。コーナーの途中にも生垣がある。斜めに飛び越えていく。
コーナーを抜けると歓声があがる。観客席が近いのかな。
でも、気にならない。
カイザーのときに比べたら、大歓声とは程遠い。
次のコーナーを曲がるとふたたびスタート地点が近づいてくる。
俺の前に1頭いる。今2番手なのかな。
だいたいこの後にいつの間にか竹が生えてきているはず。
今日こそ見落すものか。
生垣2つを飛び越える。
……変化はないな。
油断はしない。
再びコーナーの途中の生垣を飛び越える。
ノブさんが外側に行くように誘導してくる。
砂地に戻るのか?
そこからゴールまで、竹はない。よし。
だけど長い500メートルぐらいありそうだ。
もしかして今から竹生えてくるのか。途中で生えてきたら刺さるかも!!
竹が刺さる想像をして俺は怖くなってきた。竹が生える前に駆け抜けなきゃ!!
必死に走る。俺のスピードは速くない。後ろから抜かれる。1頭、2頭、3頭……。
竹が生える前になんとかゴールできた。
後ろを振り返ると悔しそうな顔のマルがいた。
マルにも竹は刺さっていない。よかった。
俺は5着だった。
検量室前で、おっさんがリンゴではなく、角砂糖をくれた。
しゃりしゃり……甘いんだけどリンゴがよかったなー。
あんちゃんに鼻水をつけてやりたい気分になった。




