この世界の闇を光で照らす
第21話 この世界の闇を光で照らす
いよいよ、防爆電球と電線の設置が終わった。 あとは、スイッチを入れるだけ。 もし爆発すれば―― 炭鉱も、開発も、自分の命も終わる。
今夜が最後の夜になるかもしれない。 そんな重たい空気を吹き飛ばすように、街から秘書見習いと助手少年が蒸気トラックでやって来た。荷台には酒樽と料理が山積みだ。
「いいところに来たな! 明日は作業完了だ。前祝いだ!」
社長は炭鉱夫たちに酒を振る舞った。 炭鉱の男たちは豪快に笑い、酒をあおり、歌った。
石炭と油の匂いが混ざった空気の中、久しぶりに明るい夜だった。 ――だが。 深夜。 社長は激しく揺すられて目を覚ました。
「社長! 大変です!」
「……なんだ。まだ暗いだろう……。」
「秘書見習いが、強盗に拐われました!」
一瞬で酔いが飛んだ。
「なに!?」
強盗は炭鉱の入口へ逃げ込み、少女を人質に立てこもったという。 衛兵隊が到着しているが、炭鉱内はガスが充満している可能性がある。
灯りもない。 突入すれば爆発の危険がある。 社長は駆け出した。 炭鉱入口。 衛兵隊長が険しい顔で振り向く。
「男爵様。危険です。爆発の恐れがあります。避難を」
「……わかっている。」
社長は闇の奥を見つめた。
「だが、うちの娘が中にいる。」
自分でも驚くほど、声は震えていなかった。
「策がある。」
昼間設置した、防爆電球。
「バッテリーを接続すれば、爆発させずに灯りを点けられる」
隊長は数秒考え、頷いた。
「……やりましょう。」
バッテリーを接続。 社長がスイッチを入れる。 ……点かない。
「……断線だ。」
冷たい汗が流れた。
「内部で線が切られています。」
隊長の顔が強張る。 闇の奥から、少女のか細い悲鳴が聞こえた。
「自分が直す。」
「危険です!」
「明かりが点けば、突入できるんだろう?」
数秒の沈黙。
「……了解。」
社長は一人、炭鉱へ入った。 暗闇。 ガスの匂い。 一歩踏み外せば終わる。 手探りで電線を辿る。 冷たい岩壁。湿った空気。 見つからない。
焦るな。焦るな。 額の汗が目に入り、視界が滲む。 そのとき―― 垂れ下がった電線に触れた。 切断されている。
「ここだ……。」
犯人が引きちぎったのだろう。 震える手でペンチを取り出し、切断面を整え、防爆スイッチボックスへ接続する。 背後で衛兵が待機している。 奥から怒号。
「離して! いやぁー!」
追い詰められた人間は何をするかわからない。 心臓が破裂しそうだった。
――前の世界で、全てを失った。 会社も、信用も、居場所も。
だが今度は違う。 守るものがある。 この発明は、人を救うためのものだ。
あの日、守れなかった社員の顔が闇の中に浮かんだ。
「3……2……1……。」
レバーを引く。 ――入らない。 一瞬、絶望がよぎる。 もう一度。 全力で、押し込む。 カチリ。 次の瞬間―― 白い光が闇を切り裂いた。 炭鉱が、昼のように明るくなる。
「突入!」
衛兵が一斉に駆ける。 犯人は眩しさに目を覆った。 数秒。 取り押さえ完了。 少女が解放される。 社長は少女を抱きかかえ、外へ出た。 夜風が冷たい。 膝が崩れる。 そのまま地面に倒れ込んだ。
「……ああ……こわかった……。」
炭鉱の入口が、白く輝いている。 あの闇が、光に満ちている。
「わたし、社長を最後まで信じてました。」
衛兵隊長が静かに敬礼した。
「男爵様。本日、この炭鉱は闇を克服しました」
社長は笑う。
「……もう炭鉱は懲り懲りだ。」
だが、灯りはまだ消えていない。
その光は、優しく炭鉱を包み、 この国の闇を明るく照らした。
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