かつてマルペンを裏で潰した男、アークガイル
第16話 かつてマルペンを裏で潰した男、アークガイル
マルペン商会を裏から潰した男――
アークガイル。
その男が、初めて“焦っていた”。
「あの社長……また復活だと?」
新聞を握りしめる。
「王室御用達、新発明事業成功。」
グラスを床に叩きつけた。
ガシャン!
飛び散った酒が靴を濡らす。
だが、気にも留めない。
「ふざけるな……!」
最近では陛下直々の受注まで受けているという。
迂闊には手が出せない。
ならば――裏からだ。
あのギャング団を動かせばいい。
どうすれば奴らを乗せられる?
男は腕を組み、目を細めた。
◆
手下を酒場へ向かわせ、接触を試みる。
だが――
「ソンブレロモネダ商会には手を出さねぇ。」
団長の答えは冷たかった。
「……理由は?」
「あそこはやめとけ。割に合わねぇ。」
交渉は決裂。
「くそっ……!」
あんな連中ですら手を引くのか。
先日の襲撃も、厳重な護衛に阻まれた。
屋敷は要塞のように警戒されている。
――さすがだ。
だが、まだ終わらん。
終わらせてなるものか。
男は、静かに笑った。
奴を嫌う貴族は多い。
金と権力を持ちながら、
あの男のやり方を「下品」と吐き捨てる連中だ。
――あれを使う。
「今度は……踊ってもらおうか。」
◆
夜更け。
「ご注文の品をお届けに参りました。アークガイルと申します。」
門番は一瞬訝しんだが、その名を聞いた途端、顔色を変えた。
黒い馬車が、静かに門をくぐる。
屋敷の奥――応接間。
王都でも悪名高い享楽貴族、
ベルノア伯爵が待っていた。
脂ぎった指で杯を回しながら、男は笑う。
「……来たか。」
アークガイルは一礼する。
その背後には、一人の少女が立っていた。
伯爵の視線が、ゆっくりと少女へ向けられる。
値踏みするような、嫌な目だった。
「……悪くない。」
「お気に召したのでしたら、このまま置いていきます。」
「ふむ。」
しばしの沈黙。
やがて、袋の擦れる音が響いた。
取引は、それだけで済んだ。
アークガイルは金の重みを確かめると、ふと口を開く。
「しかし――これも長くは続きません。」
「なに?」
「最近、防犯の仕組みが広がっておりましてね。」
「例の男か。」
「はい。ヤマタニ男爵です。」
伯爵の眉がぴくりと動く。
「あの男がいる限り……“狩り”は難しくなるでしょう。」
沈黙。
やがて――
「おのれ……ヤマタニめ。」
低く、怒りが滲む。
「わしの楽しみを邪魔するとは……。」
アークガイルは深く頭を下げる。
「ご不便をおかけいたします。」
その口元は――わずかに歪んでいた。
◆
屋敷を後にする。
黒い馬車が、夜の中を進む。
(これでいい)
善人は守る。
守れば守るほど――恨みを買う。
善意など、いくらでも刃に変えられる。
「今度こそ……終わらせる。」
男は、静かに笑った。
黒い馬車は、音もなく闇に溶けていく。
その夜。
ひとつの悪意が、確かに動き出していた。
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