臆病者の城
第15話 臆病者の城
「金持ちども、皆殺しだ!」
その文言は、王都中を震え上がらせた。
スターユニオン新聞の一面。
“ファイヤーエレメンタルギャング団”の名が、恐怖とともに広がる。
燃え上がる屋敷。
逃げ惑う人影。
そして――悲鳴。
商人襲撃。
一家惨殺。
放火。
火と血の匂いが、王都に漂っていた。
◆
社長は、紙面を持つ手が震えていることに気づいた。
気づいた瞬間、余計に止まらなくなる。
怖い。
正直に――怖い。
「守る。」と言ってきた。
「皆を守る。」と胸を張った。
だが本当は――
喧嘩もろくにしたことのない男だ。
剣も握れない。
拳も振るえない。
守ると言いながら、
自分の手では何一つ守れない。
ただの臆病者。
少年警備隊に頼る?
孤児に家臣候補を出させる?
(情けない……。)
◆
その日から社長は外出を控えた。
会議は屋敷で。
設計図は使いに持たせる。
商談もすべて室内。
まるで亀のように。
だが――
警備はやりやすくなった。
守る対象が動かない。
動線が固定される。
防御が組みやすい。
臆病は、結果的に合理的だった。
◆
薄暗い酒場の奥。
ファイヤーエレメンタルギャング団の団長は、新聞を丸めた。
「ソンブレロモネダ商会は外す。」
部下が顔を上げる。
「なんでです?」
団長はしばらく黙り、酒をあおる。
「あの社長は善人だ。」
「善人だからですか?」
「違う。」
団長の目が鋭くなる。
「警備が厚い。少年警備隊、消防隊、護衛十人。屋敷から出てこねぇ。」
「あそこはやめとけ。割に合わねぇ。」
部下が苦笑する。
「それに――。」
団長は低く言った。
「俺も昔、孤児だった。」
空気が変わる。
「もしあの商会があったら、俺は真っ先に飛び込んでたかもしれねぇ。」
誰も何も言わない。
「だが――王都の成金貴族は別だ。」
団長の口元が歪む。
「燃やせ。」
◆
屋敷。
社長は窓の外を見ていた。
夜の巡回をする少年警備隊の灯りが、遠くに揺れている。
(俺は、怖い。)
(だが――逃げるだけではいられない。)
守るために強くなる必要はない。
剣を振るえなくてもいい。
戦えなくてもいい。
だが――
考えることはできる。
仕組みを作ることはできる。
臆病でも、街は守れる。
社長は机に向かい、新たな紙を広げた。
そこに書いたのは――
サンブレロ防衛計画
・夜間通行証制度
・街門の設置
・見張り塔建設
・鐘による緊急連絡網
・消防隊と警備隊の統合訓練
震える手は、いつの間にか止まっていた。
臆病者は、考える。
勇者は前に出る。
だが臆病者は――
生き残るための仕組みを作る。
炎には、水を。
暴力には、壁を。
そして――人を守る仕組みを。
社長は深く息を吐いた。
「怖いな……。」
だがその目は、もう逃げていなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
もし少しでも続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価【★★★★★】で応援していただけると嬉しいです!
すごく励みになります!




