記者と汽車
第10話 記者と汽車
ある日、ひとりの若い記者がやって来た。
スターユニオン社の腕章をつけた青年だ。
「申し遅れました。スターユニオン社の記者です。ソンブレロモネダ商会と社長の取材をさせていただきたく――」
「ああ、聞いている。邪魔しない程度なら構わん。」
ちょうどその時、試作機が煙を上げていた。
蒸気トラックを改良した――蒸気機関車。
白い蒸気が空へ立ちのぼる。
「すごい機械ですね……。」
青年は目を丸くする。
「これは蒸気機関車だ。レールの上を走る。トロッコを牽引する乗り物だ。」
「蒸気……機関車!?」
試運転。
運転席から少年が顔を出す。
「圧力、行けます!」
「よし、発車だ!」
汽笛が鳴る。
ピィーーーッ!
旗が振られ、ホイッスルが応える。
「出発進行!」
ブロアバルブ開。
ドレンコック開。
リバーサー前進全開。
ブレーキ解除。
ガシャリ、と車輪が一瞬空転。
そして――
ゆっくりと動き出す。
シュー
「ウォーターハンマーに気をつけろ!シリンダーを壊すな!」
社長の声に、機関士が力強く頷く。
シュシュシュシュシュシュ
鉄の塊が、意志を持ったように前へ進む。
記者は呆然とつぶやいた。
「……凄い。まるで生き物だ。」
「ワクワクするだろ?」
社長は少年のように笑った。
試運転は成功。
蒸気自動車 バス仕様
荷台に椅子と屋根をつけた十人乗りの車だ。
社長自ら運転する。
「乗るか?」
記者は即座に頷いた。
再び汽笛。
今度は大地を走る。
蒸気が噴き、振動が伝わる。
「馬車より速い……!」
「だろう?」
社長の横顔は、少年のようだった。
サンブレロ視察
発電所は安定稼働。
排熱利用の木材乾燥機も順調。
製材所では丸ノコが唸り、角材が量産されている。
工場では少年少女がカメラやオルゴールを組み立てている。
蒸気トラック工場の建設現場にも顔を出す。
酒樽や木箱を降ろす少年たち。
「いつもすみません。」
「なに、完成したら祝杯だ。」
さらに販売店、石鹸工場、万年筆工場。
玩具工場では試作品。
たらいの水に、小さな船。
ロウソクに火をつける。
しばらくして――
船がゆっくり動き出し、くるくる回る。
「どういう仕組みですか?」
「銅パイプに水を入れて温めるだけだ。蒸気が後ろに噴き出す。」
「簡単なのに……面白い。」
記者の目は輝いていた。
社長という人間
孤児院で昼食。
午後は会議、書類、図面、業者面談。
一日中動き回る社長。
気づけば記者の方がぐったりしていた。
「若いのに淡白だな。疲れてるだろ?早く帰れ。」
中年の社長が気を遣う。
記者は苦笑した。
(普通、逆だろ……。)
だが分かった。
この人は――
止まらない。
蒸気機関のように。
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