ソンブレロモネダ商会 ― 名の由来 ―
第66話 ソンブレロモネダ商会 ― 名の由来 ―
新しい看板の前に、皆が集まっていた。
――ソンブレロモネダ商会。
その文字を見上げて、子供の一人が首をかしげる。
「社長、その名前ってどういう意味なんですか?」
問われた社長は、少し照れくさそうに頭をかいた。
「ソンブレロは帽子。モネダはコインだ」
ざわり、と空気が揺れる。
「……帽子とコイン?」
社長は、遠くを見るように目を細め、ゆっくりと語り始めた。
「俺がこの街に来たときな」
その声は、どこか懐かしさを帯びていた。
「世話になったのが、古びた帽子と――いつの間にか入っていた、数枚のコインだった」
場が静まり返る。
「恥ずかしい話だがな。自分では物乞いじゃないと思っていた」
「だが、腹は減っていた。宿もなかった」
一拍置いて、社長は自嘲気味に笑う。
「つまり――ただの浮浪者だ」
子供たちの表情が、少しだけ柔らいだ。
社長は続ける。
「マルペン商会は“ペン”から取った名前だ。再出発の意味だった」
「だがな……本当の“最初”は違う」
視線が、看板へと向けられる。
「帽子とコインだったんだ」
あの日の寒さ。
空腹。
路地裏を吹き抜ける風。
だが――
あのコインがあったから、生き延びた。
あの帽子があったから、人としての体裁を保てた。
社長はゆっくりと、皆を見渡す。
「だから、“帽子とコイン”にした」
そして、静かに言った。
「お前たちも、似たようなもんだろう?」
一瞬の沈黙。
――次の瞬間。
「ちげぇねぇ〜!!」
爆発したように笑いが起きた。
「俺もパンの耳からだ!」
「私は古靴!」
「私はボロ布!」
笑い声が、どこまでも広がっていく。
誰もが同じだった。
何もなかった。
それでも、生きてきた。
社長は大きく頷いた。
「今日から孤児院は――ソンブレロモネダ孤児院」
「そして工場は――ソンブレロモネダ商会だ」
力強く、言い切る。
「忘れるな」
「俺たちはゼロから始めた」
「だから――何度でも立て直せる」
風が吹いた。
新しい看板が、きらりと光る。
経理課長が杯を掲げ、秘書がそっと微笑む。
「新たなる門出に――」
社長が高らかに叫ぶ。
「乾杯だ!!」
「商会設立、バンザーーイ!!」
歓声が、空へと突き抜けた。
涙と笑いが入り混じる。
誰もが知っている。
これは、ただの会社ではない。
これは――
“帰る場所”だ。
もう二度と、路地裏で倒れるための人生ではない。
第一部 完
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