泣き崩れる発明家
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第60話 泣き崩れる発明家
発明家の部屋には、壊れた夢が山のように積まれていた。
歯車。
ゼンマイ。
途中で投げ出した設計図。
その山の中に、彼は椅子を逆さに跨って座り、背もたれに両腕を置き、顎を乗せて動かなかった。
扉の向こうから、足音が近づく。
トントントン。
「おじちゃん、おしょくじをもってきたよ。」
幼い声だった。
「野菜卵スープ、黒パン、お茶だよ。」
返事はない。
トントントン。
「おしょくじだよ。あけて。」
沈黙。
トントントントン。
「あけてー。」
ガチャリ。
「うるさいわい!」
乱暴に扉を開けると、小さな少女が大きなトレーを両手で抱えて立っていた。
「あっ、やっと開いた。」
満面の笑みだった。
「そこに置いて帰ってくれ。」
ぶっきらぼうに言う。
だが少女は気にしない。
「わー、おもちゃいっぱいあるー!」
勝手に中へ入り、部屋を見回す。
棚には奇妙な木製人形。
ばね仕掛けの鳥。
目をぱちぱちさせる兎。
「あたし、このうさぎ好き。」
発明家は顔を背けた。
その人形は、孤児全員分を徹夜で作ったものだった。
同じ顔にしないよう、一体ずつ少しずつ違う表情にした。
「ねぇ。」
少女が振り向く。
「なんで、みんなのところに来ないの?」
スープを口に運ぶ手が止まった。
「ねぇ、どうして?」
答えられない。
喉が詰まる。
自分が金庫を開けたこと。
通帳と印鑑が持ち去られたこと。
社長を裏切ったこと。
全部、自分の中で渦を巻く。
少女は首をかしげる。
「どこか、いたいの?」
その無垢な問いに、堰が切れた。
大粒の涙が、ぽたりと落ちる。
一つ、また一つ。
止まらない。
トレーを椅子に置き、少女を抱きしめた。
小さくて、温かい。
「何処かいたいなら、ドクターに言いなよ。」
少女は真面目な顔で言う。
「……ああ。」
声が震える。
「ああ、そうだな。痛い。……胸が、痛い。」
胸を押さえる。
少女は黙って、彼の服を握った。
責めない。
問い詰めない。
ただ、そこにいる。
発明家は、ゆっくりと立ち上がった。
少女を抱きかかえたまま、部屋を出る。
廊下の向こうには、孤児院の灯りがある。
笑い声が、微かに聞こえる。
「……逃げてばかりでは、だめだな。」
少女が見上げる。
「おじちゃん、みんな待ってるよ。」
発明家は、深く息を吸った。
「そうだな。」
そして、歩き出す。
今度は、隠れるためではない。
向き合うために。
◆
その頃、妻達は静かに動き出すのだった…。
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