鍵を開けた男
第58話 鍵を開けた男
元発明家の部屋は、がらくたの山だった。
歯車。試作品。失敗作。
煤けた設計図。
その山の中に椅子を逆さに跨り、背もたれに両腕を置き、顎を乗せる。
動かない。
「あの人が、女と逃げた……?」
鼻で笑う。
信じられない。
同じ発明家として、あの社長は憧れだった。
思いつきではなく、形にする男。
理屈だけでなく、人を救う男。
尊敬していた。
だが――
「俺は……」
目を閉じる。
販売課長の声が蘇る。
“社長が不在だ。取引先に金を回さないと潰れる”
“今すぐ金庫を開けろ。緊急事態だ”
焦っていた。
確かに資金繰りは綱渡りだった。
だから、自分の技術で金庫を開けた。
傷一つつけずに。
誇らしくさえ思った。
だが。
持ち出されたのは現金だけではない。
銀行預金通帳。
銀行印。
重要書類。
“取引に必要だ!”
あれは嘘だった。
「……騙された。」
拳が震える。
だが本当に騙されたのか?
自分は疑わなかった。
確認もしなかった。
大恩人に一言も報告しなかった。
それは――裏切りだ。
「なんて顔して会えばいい……。」
部屋に閉じこもる。
発明品の山が、責めているように見える。
技術はある。
だが、心は弱かった。
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