誰もいない工場
第57話 誰もいない工場
いつものように仕事場へ向かった。
だが――誰もいなかった。
釜には途中まで溶かされた材料。
休憩室には、飲みかけの茶。
机の上には、包まれぬままの石鹸。
人だけが、いない。
少年は立ち尽くした。
昨日まで笑い声があった場所。
怒鳴り声も、歌声もあった場所。
それが、音を失っていた。
静かすぎた。
「……終わったのか」
胸が締めつけられる。
そして思い出す。
あの日。
金庫を開けていた、あの人の姿。
偶然見た。
けれど、何も言わなかった。
言えなかった。
「俺のせいだ……」
少年は歯を食いしばった。
涙が落ちる。
泣きながら、釜の火を消す。
材料を片付ける。
商品を箱に戻す。
その背中を、誰かが見ていた。
一人、また一人。
少年少女が集まる。
誰も言葉を発しない。
ただ、黙って片付け始める。
やがて誰かが言った。
「盗まれるかもしれない」
「隠そう」
倉庫の奥へ道具を運ぶ。
工具を布で包む。
材料を積み直す。
小さな手で、商会を守ろうとする。
頼れる大人はいない。
社長も、経理課長も、秘書も。
いるのは、酔っぱらいのドクターだけ。
「……どうする?」
少年少女は顔を見合わせる。
不安はある。
だが逃げない。
なぜなら――
あの人は、いつも逃げなかったから。
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自分の部屋についてから、ポケットWiFiを会社に忘れた事に気がついた。あれがないと18時に投稿が出来ない。仕方なく取りに戻る。なんとか間に合って良かったです。




