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倒産中年社長、異世界で孤児達と逆転再生経営!  作者: 神永ちろる


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ヤマタニ子爵になる

第26話 ヤマタニ子爵になる



ヤマタニ舘にて、休日を満喫しているヤマタニは、ハチと庭で戯れていた。

柔らかな陽射しが芝を照らし、風は穏やかに木々を揺らす。

忙しない日々の合間に訪れた、束の間の安らぎだった。

ハチが楽しそうに駆け回り、ヤマタニの足元に飛びつく。

その頭を撫でながら、ヤマタニは小さく息を吐いた。


「……こういう時間も、悪くないな。」


だが――その平穏は、長くは続かなかった。

門の方から慌ただしい足音が響く。

嫌な予感がした。


「……まさか。」


次の瞬間、使用人が駆け込んでくる。


「旦那様、王宮より使いの者が――!」


やはり来たか。


「陛下の使いが来るたびに、心臓に悪い……。」


思わず本音が漏れる。

王宮からの呼び出しは、だいたいロクでもない。

無茶な依頼か、とんでもない案件か、そのどちらかだ。

だが、呼ばれた以上は行かないわけにはいかない。

ヤマタニはゆっくりと立ち上がると、服の皺を整えた。


「……仕方ない。行くか。」


ハチが不安そうに見上げてくる。


「すぐ戻る。」


そう言い残し、ヤマタニは王宮へと向かった。

王宮、謁見の間。

高い天井、磨き上げられた床、左右に並ぶ貴族達。

その視線が一斉にヤマタニへと向けられる。

ざわり、と空気が揺れた。


(……なんだ、この雰囲気は。)


いつもと違う。

明らかに、何かがある。

ヤマタニはその違和感を抱えたまま、玉座の前へと進み、跪いた。


「ヤマタニ男爵、お呼びにより罷り越しました。」


静寂が落ちる。

やがて、玉座の上から声が響いた。


「よくぞ参った。ヤマタニ男爵。」


「はっ。」


「数々の発明、乗り物の開発、国への貢献度を大とする。」


周囲の貴族達がざわつく。

その中には、明らかに面白くなさそうな顔もあった。


(……やっぱりな。)


ヤマタニは内心で苦笑する。


「よって褒美を与える。」


一瞬、空気が張り詰めた。

そして――


「ヤマタニ男爵を子爵に叙爵する。」


どよめきが広がる。


「……!」


やはり来たか。

予想はしていた。

これだけのことをやって、何もないはずがない。

だが――


(実際に来ると、重いな……。)


男爵から子爵へ。

それは単なる肩書きではない。

責任も、権力も、敵も――すべてが増える。


「サンブレロから西一帯とブエナ街を与える。さらに金貨二千枚を褒美として与える。」


金貨二千枚。

その言葉に、一部の貴族が息を呑んだ。

ヤマタニ自身も、内心では驚いていた。


(助かる……。)


開発、工事、設備投資。

ヤマタニランドや発電所に注ぎ込んだ資金は莫大だ。

回収には、下手をすれば数十年かかる。

そこにこの褒美。

正直、ありがたいどころの話ではない。

だが――


「そして顧問役として役職を与える。」


(来たな。)


ヤマタニは心の中で呟いた。

褒美だけで終わるはずがない。

当然、見返りがある。


「ははぁ。ありがたくお受けいたします。」


断るという選択肢はない。

ここで拒めば、何が起こるか分からない。

顔を上げた瞬間、貴族達の視線が突き刺さる。

羨望、嫉妬、警戒――


(……面倒なことになりそうだな。)


だが同時に、別の考えも浮かぶ。


(ブエナ街か。)


食料をよく仕入れている街。

周辺には広い畑がある。

サンブレロの慢性的な食料不足。

それを一気に解消できる可能性がある。


(悪くない……どころか、かなり良い。)


領地経営という新たな課題。

だがそれは同時に、大きなチャンスでもあった。



叙爵の後、執務室に呼ばれたヤマタニ子爵は困惑していた。

お茶を飲みながら待つこと、四十分。


(長い……。)


貴族になっても待たされるものは待たされるらしい。

ようやく扉が開き、陛下が姿を現した。


「おお、待たせたなヤマタニ子爵。」


「ははっ。」


ヤマタニは立ち上がり、礼をする。


「堅苦しいので、普通にしてよい。」


「はい。」


「叙爵の際に言ったが、顧問役として色々と相談に乗って欲しいのじゃ。」


「相談、ですか?」


「そうじゃ。」


ヤマタニは慎重に言葉を選ぶ。


「して、どのような?」


内心では警戒していた。

ここからが本番だ。


「はじめは国務大臣などの役職も考えた。」


(やめてくれ……。)


「だが、それでは忙しくて発明や経営が出来なくなるじゃろう?」


「はい。現在も多忙です。」


即答だった。

陛下は満足そうに頷く。


「だが、そちの力を遊ばせるのは勿体ない。」


その目は、まっすぐヤマタニを見ていた。


「国の為に鉄道を張り巡らせ、外輪船を水路に走らせ、発電所を作って王都を明るく照らして欲しい。」


「……。」


スケールが大きすぎる。

一つでも国家事業だ。

それをまとめて要求してくるとは。


「ヤマタニランドの様に……。」


その一言で、全てが繋がった。


「もしかして、あのテーマパークを見たのですか?」


「ああ。忍びで一日堪能した。」


やはりか。


「……どうでした?」


「楽しかった。だがそれだけではない。」


陛下は静かに続ける。


「あそこには、人を動かす力があった。」


「人が笑い、金が動き、街が潤う。」


「貴族共は古いやり方に縛られておる。変化を嫌い、既得権益にしがみつく。」


少しだけ、声音が低くなった。


「だからこそ、外から壊す必要がある。」


(……なるほどな。)


ヤマタニは理解した。

これは単なる開発ではない。

既存の仕組みとの衝突――改革だ。


「わしは、あのヤマタニランドのような国にしたいのじゃ。」


その言葉には、確かな熱があった。

しばしの沈黙。

ヤマタニはゆっくりと息を吐く。

面倒ごとは増える。

確実に、敵も増える。

だが――


(面白い。)


胸の奥で、何かが燃えた。


「……承知しました。」


顔を上げる。


「暇な時があれば、協力いたしましょう。」


控えめな言い方。

だが、その実――


逃げるつもりはなかった。

陛下は満足そうに笑う。


「うむ。それでよい。」


こうしてヤマタニは、顧問役となった。

子爵として。

そして、国を変える側の人間として。


だが――

この決断が、後に大きな波乱を呼ぶことを、

この時のヤマタニは、まだ知らなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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