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倒産中年社長、異世界で孤児達と逆転再生経営!  作者: 神永ちろる


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陛下お忍びでヤマタニランドへ②

第25話 陛下お忍びでヤマタニランドへ②


陛下は昼食を終えると、ゆったりと植物園を回った。

先ほどまでの喧騒が嘘のように、そこは静寂に包まれている。

温室に一歩足を踏み入れると、むわりとした熱気が身体を包み込んだ。

湿った空気、濃い緑の匂い、甘く香る花の気配。

天井は高く、ガラス越しに差し込む光が葉に反射して、空間全体が淡く輝いている。

見たことのない草木が、所狭しと植えられていた。


「……これは、見事だな。」


陛下は思わず足を止める。

鮮やかな色の花々が咲き乱れ、異国の植物と思しき巨大な葉が揺れている。

自然そのものを切り取ったかのような空間だった。


「こちらの植物園は、アトラクションとは打って変わって、ゆったりと過ごせますね。」


「うむ。ここはなごむ。」


先ほどまでの絶叫や歓声とは違い、ここには静かな時間が流れている。

陛下はベンチに腰を下ろした。

深く息を吸う。

肺の奥まで満ちる湿った空気が、不思議と心を落ち着かせた。


(こういう場所も用意しておるか……。)


ただの娯楽ではない。

人の“疲れ”まで計算されている。

しばらく無言の時間が流れた。

陛下は何も言わず、ただ景色を眺める。

それだけで満たされていた。





各商業スペースもあったが、こちらはざっくりと見て通り過ぎた。

宝飾、衣類、工芸品――どれもよく出来ている。

だが陛下は、あまり興味を示さない。


(物ではないな……。)


この場所の価値は“体験”にある。

そう無意識に理解していた。





「こちらはキャンプ場になります。」


案内に従い、広々とした開けた場所へ出る。

整然と並ぶテント。木造の小屋。焚き火の跡。


「キャンプ場とは野外宿泊か?」


「はい。自然を満喫しながら寝泊まりする施設で、テントやコテージに泊まれます。」


「なるほど、自然を楽しみ寝泊まりとはなかなか良さそうじゃな。」


陛下は興味深そうに周囲を見渡す。


「はい。こちらは24時間管理人が監視し、警備して安全です。」


「なかなか野外だと、魔物がおるからのぅ。見張りがいるから安心して眠れる理由か。」


「はい。一般と貴族でスペースが分けられていますから、なかなか良い配慮です。」


「ふむ。」


陛下は静かに頷く。


(安全を買わせる、か……。)


自然を売りながら、安全も売る。

相反するものを両立している。

ただの娯楽ではない。

“仕組み”だ。





中央広場。

一転して、賑やかな空間。

笑い声、歓声、音楽、呼び込みの声が混ざり合う。

大道芸人が玉乗りし、ジャグリングを披露する。

炎を吐き、観客がどっと沸く。

屋台では焼串の香ばしい匂いが漂い、ポテトフライを頬張る子供たちが笑っている。


「……活気があるのぅ。」


陛下は思わず呟く。

別の場所では、吟遊詩人が歌っていた。

軽やかな旋律に乗せて語られる物語。


「あの吟遊詩人はヤマタニを歌っていたな?」


「はい。この地ではヤマタニ男爵は人気があり、ヤマタニの歌は興行収入が良いらしいです。」


「宰相は何でも知ってるな?」


「いいえ。何でもは知りませんが、陛下と来る前に下見をしましたから。」


「うむ。苦労をかけたな。」


「いえ。私も楽し……いや勉強になりましたから。」


一瞬の言い淀み。

だが、陛下は気付いていた。


(この男も、楽しんでおるな。)





陛下は人混みに紛れ、バザーを歩いた。

笑顔の客。値段交渉する商人。走り回る子供。


「庶民たちが、あんなに生き生きしておるな。」


自然と出た言葉だった。


「そうなんですが、見た目の衣装にまではされてはなりません。」


「ん?どういう事だ。」


「はい。入口付近に貸衣装屋があり、コスプレなる事で貴族や冒険者に変身出来るのです。」


「何と!」


「はい。だから平民に見えても、実は中身は貴族だったり、騎士に見えても農民かもしれません。」


「はぁ〜……」


陛下は周囲を見渡す。

確かに、豪華な服の者もいれば、粗末な服の者もいる。

だが、その境界は曖昧だった。


「このテーマパーク全部が、そんな仮装パーティー会場だったか。」


「はい。テーマパーク開園当初、客足が伸びずにいたらしいのですが、ヤマタニの知恵と工夫で資金をあまり掛けずに再生したと報告をうけました。」


「ヤマタニは何でも出来て有能じゃのう。」


「有能な人材です。」


だが――

陛下は内心で別のことを考えていた。


(身分を曖昧にする場所……か。)


一時的とはいえ、貴族も平民も“同じ場で遊ぶ”。

これは――思想に近い。





ボートに乗る。

水面が静かに揺れ、街の喧騒が遠ざかる。

芝居を見る。

笑い、涙、拍手。

土産物を見て回る。

色とりどりの商品が並ぶ。


「何故入口出口付近に土産店が沢山あるのじゃ?」


「工場見学ツアーなるものも最後は土産物を売ってましたね。」


「やはり、入場料や乗り物などの料金も大事ですが、土産物を売る事、記念日を売る収益がばかにならないのでしょう。」


「なるほど、夢を売る、記念品を売るのも商売か。」


陛下は一つ一つを吸収するように頷く。

(体験で満足させ、最後に金を落とさせる。)


(よく出来ておる……。)



 

そして――

最大の呼び物。

温泉。

湯気が立ち上り、木造の建物が静かに佇む。


「ここが、鉱泉温泉か。」


「はい。健康に良いとされる温泉です。」


「納税出来ない貧民が、日々労働で税を納め、癒しを求めて来るそうです。」


「なるほど、これはよいな。」


陛下はゆっくりと湯に浸かる。

身体の力が抜けていく。


「……これは、良い。」


思わず目を閉じた。


「たしかに気持ちいいですな。」


宰相も珍しく素直な声を漏らす。

静かな時間。

湯の音だけが響く。


(働き、疲れ、癒す……。)


(循環しておる。)





食事。

魚の塩焼き。野菜の煮物。鶏のスープ。

質素だが、温かい。


「……うまいな。」


陛下は全てを食べきった。





そして――

夜。

温泉の外。

月明かり。

湯気がゆらりと立ち昇る。


「なあ、宰相。」


「何でございましょうか?」


「今日は泊まって明日も回っていいか?」


「駄目でございます。陛下。」


即答だった。

沈黙。

だが――

陛下は笑った。


「……そうか。」


その声には、満足が混じっていた。





湯気が夜空に溶けていく。

静かな夜。

だがその裏で――

国の未来が、静かに動いていた。


(ヤマタニ……。)


(あやつは、国を変える。)


陛下はそう確信していた。

こうして、お忍び視察は幕を閉じた。


だが――

これは終わりではない。

“始まり”だった。


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