北の森に眠る財宝
第23話 北の森に眠る財宝
ヤマタニが工場内を巡回していると、見慣れない男がやって来て声をかけてきた。
「お初にお目にかかります、ヤマタニ様。ビネミーと申します。」
「……何か用か?」
中年の小男。身なりは整っているが、どこか落ち着きがない。視線が僅かに泳いでいるのが気になった。
「ヤマタニ様に、良いお話がありまして。」
「良い話、ねぇ……」
ヤマタニは眉をひそめる。こういう輩の“良い話”で、本当に良い結果になった試しは少ない。
「北の森に、とてつもない鉱脈がございます。」
「ほぉ……」
「しかも、それはヤマタニ様の領地内。勝手に掘るわけにはいきません。ですので、正式に採掘権をいただきたく参りました。」
筋は通っている。だが――
「なぜ、その情報をわざわざ持ってきた?」
「……それは、私一人ではどうにもならないからです。」
一瞬の間。やはり、何かある。
ビネミーは鞄から革袋を取り出し、中身を差し出した。
袋の中には、赤く妖しく輝く石。
「これは……魔晶石か。」
騎士団が魔物討伐の際に回収していたものと同じだ。
「はい。この魔晶石が、地中に埋まっております。しかも、かなりの量が。」
ヤマタニは石を手に取り、重さと輝きを確かめる。
魔晶石は希少だ。市場に出回ること自体が少なく、ひとつで騎士の数ヶ月分の給金に匹敵することもある。
それが“鉱脈”として存在するなら――
(当たれば、とんでもない金になるな。)
「……それで?」
「採掘し、売却した利益を折半で――。」
「却下だ。」
即答だった。
ビネミーの顔が引きつる。
「話がうますぎる。危険があるな?」
「……ございます。」
観念したようにビネミーが口を開く。
「強い魔物が棲みついており、落ち着いて採掘できません。」
やはりか。
「つまり、護衛付きで掘らせろという話だな。」
「おっしゃる通りでございます。」
ヤマタニは少し考え、口を開いた。
「まずは事実確認だ。部下を案内しろ。話はそれからだ。」
「承知いたしました。」
――後日。
ビネミーと共に、カミル、バニム、グランドル、ピケ、ベルナードらが北の森へ向かった。
途中までは馬で進めたが、奥へ進むにつれて道は荒れ、やがて徒歩に切り替わる。
木々は密集し、陽の光も届きにくい。湿った土と腐葉土の匂いが鼻につく。
「おい、まだか?」
グランドルが苛立ちを隠さず言う。
「もう少しでございます。」
その“もう少し”が何度目か分からない頃、ようやく目的地が見えてきた。
岩壁にぽっかりと口を開けた洞窟。
中は暗く、冷たい空気が流れ出ている。
「……ここか。」
一行は二手に分かれる。ピケとベルナードは外で待機し、馬の管理と野営準備。残りが洞窟へ入る。
足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
水滴の音が響き、足音がやけに大きく反響する。
「気をつけろ……何かいる。」
カミルの声が低くなる。
次の瞬間――
「ガルルルル……。」
唸り声と共に、狼の魔物が姿を現した。
六匹。
間髪入れず、飛びかかってくる。
「来るぞ!」
カミルが先頭の一匹を一刀で斬り伏せる。バニムとベルナードも即座に反応し、それぞれ敵を迎え撃った。
狭い洞窟内での戦闘。回避の余地は少ない。
牙が閃き、爪が迫る。
だが――
「甘い!」
カミルが体を捻り、飛びかかる狼を斬り裂く。バニムも慣れた動きで急所を突き、確実に仕留めていく。
最後の一匹が怯まず突進する。
ベルナードが一歩踏み込み、無言で首を刎ねた。
静寂。
「……終わったか。」
バニムが魔晶石を回収する。
そのまま奥へ進み、ビネミーの指示する地点へ到達した。
試しにツルハシを振るう。
カチン――
硬い手応え。
さらに掘る。
やがて、土の中から赤い輝きが現れた。
「……出たぞ。」
ひとつ、ふたつ、みっつ。
わずかな試掘で、三個の魔晶石。
「これは……。」
カミルが息を呑む。
市場にほとんど出回らない魔晶石が、これだけ容易く。
「当たりだな。」
低く呟く。
だが同時に確信する。
(これは、争いを呼ぶ。)
回収を終え、引き返す途中――
「ガオォォォッ!!」
洞窟の外から、地を震わせるような咆哮。
「入口だ!急げ!」
駆け戻ると、そこには巨大な熊――ジャイアントグリズリーの亡骸が横たわっていた。
その傍らに立つベルナード。
衣服の一部が裂け、血が滲んでいるが、表情は変わらない。
「……お前がやったのか?」
カミルが問う。
「ピケと一緒に倒した。」
淡々と答える。
「いえ、自分は矢を一本当てただけで……。」
ピケが慌てて否定する。
「その一矢がなければ、少し時間がかかった。」
ベルナードは短く言った。
カミルは無言で頷く。
(……信用はできんが、腕は本物か。)
その夜は洞窟前で野営となった。
グリズリーの肉を使ったスープが振る舞われる。
火を囲みながら、カミルは静かに考えていた。
この鉱脈――
守りきれるかどうかで、今後が大きく変わる。
翌日も試掘を行い、合計八個の魔晶石を確保。
結果は明白だった。
――帰還後。
報告を受けたヤマタニは、即座に判断する。
「ビネミーが採掘。こちらが護衛と管理を担う。」
「取り分は六対四だ。六がこちら。」
ビネミーは一瞬考え、やがて深く頭を下げた。
「……承知いたしました。」
契約成立。
ヤマタニは机の上に並べられた魔晶石を見つめる。
(採掘、護衛、人員、流通……やることは山ほどあるな。)
だが、その全てが利益に繋がる。
何もないと思われていた北の森。
そこに眠っていたのは――
“金脈”だった。
ヤマタニは静かに笑った。
新たな事業が、今まさに動き出そうとしていた。
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