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倒産中年社長、異世界で孤児達と逆転再生経営!  作者: 神永ちろる


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孤児に働かせて、引き篭もる男

第22話 孤児に働かせて、引き篭もる男


王都の片隅に、モリスという男が住んでいる。

外に出るのは買い出しのときくらいで、普段はほとんど家に引きこもっている。


そんな男の家には、なぜか多くの孤児がいた。

少女は花やマッチを売り、少年は靴磨きや薪拾いをする。


子供たちはそれぞれ外で働き、日銭を稼いで帰ってくる。

そして——その稼ぎは、すべてモリスの手に渡る。


「今日はこれだけか。」


穏やかな声とは裏腹に、モリスの指は慣れた手つきで硬貨を数えていた。

足りないとは言わない。だが、多いとも言わない。

ただ静かに、すべてを受け取る。

回収した金で食料を買い、料理を作るのもまたモリスの役目だった。


「モリスおじさん、今晩のごはんは?」


十歳ほどの少女が、楽しげに顔を覗き込む。


「そうだな……鶏肉のシチューと黒パンだ。」


「やった! いっぱい売ってくるね!」


少女は籠いっぱいのマッチを抱え、元気よく飛び出していった。


「肉、多めに入れてくれよ。」


十二歳の少年が、少し不満げに言う。


「それは財布と相談だな。」


モリスは苦笑する。


「ちぇっ……じゃあ、今日は薪いっぱい売ってくる。」


「期待してるぞ。」


軽口を交わしながら、子供たちは次々と外へ出ていった。

残されたのは、まだ幼い子供と、病を抱えた子供たちだけだ。


——奇妙な共同生活だった。


モリスは元々、腕の良い料理人だった。

だが怪我で右手の自由が利かなくなり、その仕事を失った。

最初は善意だった。

行き場のない孤児を引き取り、食事を与え、世話をする。


だがいつしか——働くのは子供たちになり、

モリスは家に留まり、彼らの稼ぎで生活するようになっていた。

それでも子供たちは、逃げなかった。

外の世界は、もっと厳しい。

寒さも、空腹も、暴力も——ここより容赦がない。

それに。


「……ここ、あったかいしな。」


誰かがぽつりと呟いたことがある。

モリスの作る食事は、驚くほど美味い。

掃除も洗濯も行き届いている。

最低限ではあるが、確かに“守られている場所”だった。


だから子供たちは、ここに留まる。

歪ではあるが、それなりに満たされた日々だった。

——その日の夕食までは。


「なあ、みんな。ソンナ村の話、知ってるか?」


少年のひとりが、パンをかじりながら言った。


「ああ、聞いたことある。」


「寂れた村が、急に大きな街になったってやつでしょ?」


口々に話が広がる。


「工場があってさ、見学できるらしいぜ。」


「テーマパークもあるって!」


「汽車も走ってるって聞いた!」


「私、写真見たことあるよ。お菓子の缶に付いてたやつ!」


子供たちの目が、きらきらと輝く。

モリスはその様子を見ながら、眉をひそめた。


「……与太話だろ。そんな都合のいい話があるか。」


「でも、見てきたって人がいるんだよ。」


「ほんとだって! すっごい街らしいよ!」


夢を見るような声だった。


「行ってみたいなぁ……。」


誰かの呟きに、皆が頷く。

だが——その願いが現実になるのは、

望んだ形ではなかった。


数日後。

突然、その家は他人のものになった。


「借金のカタだ。今すぐ出て行ってもらおう。」


無機質な声が告げる。

抵抗する術はない。

扉が閉められた音が、やけに大きく響いた。

子供たちは、誰も泣かなかった。


泣けば、本当に終わってしまう気がしたからだ。

荷物はほとんど残らない。

売れるものはすべて売り払った。

行くあてもない。


そのとき——


「……なあ。」


少年のひとりが言った。


「どうせなら、サンブレロ街に行こうぜ。」


皆が顔を上げる。


「あそこ、子供でも働けるらしいしさ。」


「女の子は売店で働いてるって!」


「工場もあるって聞いた!」


期待と不安が入り混じった声。

モリスは、しばらく黙っていた。

動かない右手を見つめる。


——自分は、もう料理人じゃない。


だが。

目の前には、自分にしがみつく子供たちがいる。


「……ここに残っても、何もない。」


低く呟く。


「だったら——賭けるか。」


顔を上げたとき、モリスの目に迷いはなかった。


「行くぞ。サンブレロ街へ。」


子供たちの表情が、一斉に明るくなる。

こうして彼らは、すべてを失い、

そして新しい場所を目指すことになった。


——サンブレロ街へ。


またひとつ、住人が増える。

それがどんな未来をもたらすのか、

このときの彼らは、まだ知らなかった。



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