トブは食材を集め屋台をひらく
第21話 トブは食材を集め屋台をひらく
親に捨てられたトブは、一人で生きていくと決めた。
だが、物乞いだけで食いつなぐ生活には限界がある。
腹は満たせても、未来がない。
――なら、自分で稼ぐしかない。
トブはそう考え、食材を集めて屋台を始めることにした。
捨てられていた荷車を拾い、廃材をかき集める。
屋根をつけ、簡単なカウンターを打ち付け、火を使える調理場も作った。
見よう見まねの、手作りの屋台だった。
罠で獲った魚をさばき、鱗を落とし、内臓を抜く。
そこに自分で考えた甘辛い“旨だれ”を塗り、炭火でじっくり焼く。
じゅう、と脂が落ちる音。
香ばしい煙が、通りに広がった。
「お兄ちゃん、この串焼きうまいな。酒が欲しくなる味だ。」
客の一言に、トブは思わず笑った。
――いける。
その日、用意した分はすべて売れた。
それからトブは、毎日のように屋台を出した。
魚の串焼きに加え、野菜スープ。
スグリを煮詰めたジャムと、安いパン。
金をかけずに、工夫で勝負する。
やがて評判が広がり、屋台は繁盛しはじめた。
薄汚れた浮浪児だった面影は消え、清潔な服を着て、髪を整えたトブは、もう立派な商売人に見えた。
掘っ建て小屋を出て、安い貸家へと引っ越す。
少しずつ、だが確実に――前に進んでいた。
(このままいけば……店を持てるかもしれない。)
そんな夢さえ、現実味を帯びてきていた。
◆
それから数ヶ月。
資金は十分に貯まった。
――ようやく、自分の店が持てる。
そう思った矢先だった。
「よぉトブ。ずいぶん羽振りが良さそうじゃないか。」
聞き覚えのある声に、トブの背筋が凍る。
振り返ると、そこにいたのは――父親だった。
「……今さら、何の用だよ。」
吐き捨てるように言う。
「久しぶりの再会だってのに、冷たいな。」
悪びれた様子もない。
あの日、自分を置いて消えた男だ。
「どこ行ってたんだよ。」
「ああ、急な仕事でな。どうしようもなかった。」
軽い口調だった。
――その一言で済ませるのか。
「そうかよ。じゃあな。」
トブは背を向けた。
「待てって。悪かった、謝る。だから――。」
両手を合わせて拝むように言う父親。
だが、トブの心は動かなかった。
「それで終わりか?」
「いや……また一緒に暮らしたいだけだ。」
その言葉を聞いた瞬間、トブの中で何かが完全に切れた。
もう、この人は必要ない。
トブは最後まで取り合わず、仕事に戻った。
気づけば父親の姿は消えていた。
◆
夜。
貸家に戻ると、部屋に明かりがついていた。
嫌な予感がする。
そっと扉を開けると――
父親が、ベッドでいびきをかいて寝ていた。
「……なんでここにいるんだよ。」
揺すって起こす。
「お、帰ったか。」
「どうやって入った。」
「大家に話したら開けてくれてな。」
悪びれもなく言うと、そのまままた布団をかぶった。
「おい、寝るな!」
叩いても揺すっても起きない。
トブは舌打ちし、仕方なく予備の毛布を持ち出した。
「朝になったら出ていけよ……。」
ソファは狭く、体は痛かったが、
疲れのせいで意識はすぐに落ちた。
◆
朝。
目を覚ますと、父親の姿はなかった。
「……やっと帰ったか。」
安堵しかけた、そのとき。
テーブルの上に、見慣れた缶が置かれているのに気づく。
――嫌な予感がした。
震える手で蓋を開ける。
中は――空だった。
「……は?」
頭が理解を拒む。
何度も缶の中を覗く。
だが、現実は変わらない。
全財産が、跡形もなく消えていた。
トブは、その場に立ち尽くした。
握りしめた缶が、かすかに震えている。
(……またかよ。)
声にならない呟きが、喉の奥で消えた。
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