蒸気トラック量産開始1
第24話 蒸気トラック量産開始1
トントントン。
ガンガンガン。
工場のあちこちで、蒸気トラックの部品が作られている。
鉄板を打つ音。
鋳物を削る音。
怒号のような職人の声。
かつて静かだった工房は、今では小さな工場街へと変わっていた。
組み立て場では、蒸気トラックが一台、また一台と完成していく。
この蒸気トラックは、すべて国王が買い取る契約になっていた。
炭鉱で使われ、各地へ石炭を運ぶ輸送の要となる。
「今月は八台生産か……ちょっと遅いな。」
ヤマタニが帳簿を見ながら呟く。
「どうも、部品供給が間に合わないらしいんでさ。」
隣の職人が頭をかく。
「どの部品だ?」
「シリンダー部です。」
「ああ……。」
ヤマタニは小さく唸った。
蒸気機関の心臓部。
そこが止まれば、すべてが止まる。
ヤマタニはすぐに、シリンダー工房へ向かった。
鋳造された鉄の塊。
火の粉。
削り出される金属の匂い。
その中心に、鍛冶屋の親父――マックスがいた。
「よう、マックス。」
「おや、社長さん。どうしました?」
「シリンダーの生産が遅れてるって聞いた。」
「……やっぱり耳に入りましたか。」
マックスはため息をついた。
「熟練が足りねぇんです。今は少年ばかりでしてね。」
鋳造はできる。
だが――最後の仕上げが追いつかない。
精度が狂えば、蒸気が漏れる。
最悪は爆発だ。
「熟練者は?」
「そんな都合よくはいませんよ。」
マックスは肩をすくめた。
ヤマタニは、しばらく黙って工房を見渡す。
遅れているのは、ここだけだ。
(つまり――ここが“詰まり”だ。)
腕を組む。
(職人任せでは、限界が来る。)
視線が、少年たちへ向く。
必死に削っている。
だが、遅い。
(なら――腕に頼らない方法は?)
その瞬間、ヤマタニの目が変わった。
「マックス。」
「なんです?」
「削りを、分ける。」
「……は?」
「仕上げを一人でやるから遅い。」
ヤマタニは床に線を描く。
「粗削り、半仕上げ、最終仕上げ。」
三つに分ける。
「工程を分業化する。」
マックスの眉が動いた。
「さらに――治具を作る。」
「じぐ?」
「削る位置を固定する道具だ。誰がやっても同じ精度が出る」
空気が、変わる。
「それなら……。」
マックスが呟く。
「ガキどもでも、いけるかもしれねぇ。」
ヤマタニは頷いた。
「“職人の技”を、“仕組み”に落とす。」
それができれば――
生産は、跳ねる。
「やるぞ。」
ヤマタニは静かに言った。
工場の音が、さらに大きくなる。
それはただの騒音ではない。
産業が、生まれる音だった。
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