15話 魔巣窟の森
西の森の奥へ入っていくと、急に樹木が太くなり、日差しが入らないような密林が広がっている。
ここから先が魔巣窟の森だ。
日の陽光が地面まで届かず、大きな樹木が天井のように茂っている。
西の森よりも樹木の密度が高く、地面は薄暗い。
「「さあ、行くわよ!」」
「なるべく魔獣を遭遇するのは避けましょう。危険が大きすぎるわ」
「Cランク魔獣だからと言って、観察もしないで強襲するのは、今回はなしだ」
四人それぞれに意見を出し合って、魔巣窟の森へと入っていく。
薄暗がりの森の中に、魔獣の咆哮だけが伝わってくる。
「本当に不気味な森だな。冒険者以外の人達が森の中へ入っていかない訳がわかるよ」
「もうここは魔獣達の楽園みたいなもんだからね。気配を察知される前に、回避することが重要なのよ」
「私達も樹木に身を潜めながら、魔獣に見つからないように慎重に西の森まできました」
スーラとウーラが素直な気持ちを発露する。
それだけ、この森が危険なことが実感できる。
「なるべく樹木の上を飛んでいったほうが良いだろう。キースは私が受け持つ。スーラとウーラは自分達で樹木を飛んで進んでいくといいわ」
そう言ってアルナは風の精霊を呼び出して、キースの肩を抱いて、樹木の上まで飛翔する。
スーラとウーラの双子は、樹木を跳躍で登って、樹木の間をしなやかな動きで飛んでいく。
キース達がいた場所には、トロール達が通り過ぎていったが、キース達のことは気づかなかった。
「今日は狩りのことは考えず、まず森に慣れることにしよう。このままではいつか魔獣に強襲されてもおかしくない」
「そうね。まずは森に身体を慣らすのが一番かもね」
「私もそう思うのです。まだ体が森に慣れていません」
キースの言葉に双子が同意する。
そしてアルナは黙ったまま頷く。
キース達はゆっくりとした動きで、樹木の上を移動していく。
その下の地面を魔獣達が徘徊していく。
一瞬の気の緩みが、大惨事につながりかねない。
キースの体にプレッシャーが走る。
下の地面を見ると、Bランク魔獣のキラーアントが群れをなして行進している。
キラーアントはアリの魔獣で、強靭な甲殻と強靭なアゴを持っており、群れと出会ったら最後、生きては帰ってこれないと言われている魔獣だ。
「樹木の上を飛んで移動して良かったよ。キラーアントの群れなんかに捕まったら命がなかった」
「だから人族は冒険者に向かないって昔から言われているのよ。体の身体能力が低いから」
そう言われて納得してしまうキースだった。
陽光の日差しが樹木の茂みに覆われて、地面まで光が届かないのも、魔獣を発見できない
一つの原因になっているとキースは思った。
1時間で進める距離が、西の森と違って、少しづつしか進めない。
しかし、魔獣達に囲まれるよりもマシと自分に言い聞かせる。
魔巣窟の森の魔獣達は、森の魔素が濃いからなのか、西の森よりも体が大きく、頑強に見える。
それだけで、普通の人族であれば逃げて帰っていたことだろう。
いつの間にか日は西に傾き、日の光が赤く染まり始めている。
それほど進んでいないのに、既に夕陽になろうとしている。
「夜は魔獣達が活発化する時間帯だから、動かないほうが得策よ」
「今から野営の準備をしてもいいと思います。空腹は買ってきた干し肉を噛んでしのぎましょう」
今まで西の森で冒険していた時は、ここまで精神をすり減らすことはなかった。
やはり魔巣窟の森は異質だ。
リュックから毛布だけ出して、体に巻いて、樹木の上で休憩する。そして干し肉をかじって飢えをしのぐ。
「交代は二時間おきで、スーラとウーラの組みとアルナと俺の組みに別れて監視を行う」
「それがいいでしょう。ここは異質な森の中。何が起こってもおかしくないわ」
キース達は精神的に疲れていたので、早めの休憩に入った。夜になっても火を燃やすこともできないことが痛い。
気を休ませる暇がない。
しかし、これに慣れないと魔巣窟の森に慣れたことにならないことをキース達は知っている。
大きな樹木の枝に四人で座り、毛布に包まって、交代で監視を行いながら、1日目の夜を過ごした。
キースは気が張って眠れないと思っていたが、毛布に包まると、すぐに睡魔が襲ってきた。
後のことを監視に任せて、キースは気絶するように眠りの中へ落ちていった。




