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「ああああ、ごめんなさいっ。セクハラですよね?アウトですよね?あああ、どうしよう、どうしよう」
大胆な行動に出たかと思えば、このうろたえよう。
「社長は海外にいたんですよね。どこの国ですか?欧米だと、ハグやキスも握手くらい軽いあいさつなんですよね?」
どういう国だったのかはわからないですが、もしかすると本当に帽子をかぶせるくらいの気軽さで指輪もはめるような国なのかもしれないですし……。そんな国るのかは知らないけれど。
「生活スタイルが違う国にこの間までいたんですから、仕方ありません。ちょっと驚きましたが、社長にやましい気持ちがないことはわかっていますし、勘違いするほど私も若くはないので。さぁ、急ぎましょう。3か所メモしましたので。宝石は、そうですね、指輪ばかりにしましょうか。小さい順に5つと、一番大きなもの1つ。売りやすいものと、本物かどうか一番怪しいものでどうでしょう?」
社長が手のひらで顔を押さえている。
「涼子さんに感謝します……」
「はい、では残りはちゃんとしまってきてください。私は店の場所を調べて地図を印刷しますので」
ここは田舎なので、少し都会に出ないと店はなかった。
「では、行きましょう」
徒歩、15分。バスに乗って15分。電車で30分で、やっと1件目の店だ。
チェーンで全国に何店舗も持っている質屋に初めに足を運ぶ。
買い取りカウンターはほかのお客様から見えないように目隠しされている。漫画喫茶の個室みたいな感じといえばいいだろうか。
二人で座る。40くらいの男性がカウンターの向こうに座っている。
「これを、お願いしたいんですが」
社長が、ポケットから小ぶり……といっても、十分大きな石のついた指輪5つと、目いっぱい大きな石のついた指輪一つを取り出してカウンターに置く。
すぐさま、店員が布張りのトレーを取り出し、手袋をはめた手で指輪を丁寧に並べる。
「こちらはどういった品でしょうか?」
定型句なのか、盗難品などの品を見分けるための質問なのかは分からない。
とりあえず、移動中に社長と打ち合わせたとおりにこたえる。
「あの、祖母の遺品なんです。祖母も、祖母の義母から譲り受けたらしくて、詳細はわからないんです……その、本物かどうかもわからないので」
遺品という設定にした方が不自然はないかと思ってそういう設定を作ったんだけれど、まさか社長……そんなぞんざいにポケットから出すなんて。
高価な品を扱うにしては雑すぎるので、偽物かもと疑っている感じを付け足す。
「ご遺品ですか。少なくとも曾祖母様の時代からの品ですね」
店員さんがルーペを取り出し指輪を一つ見る。
「なんの刻印もありませんね。たしかに少し古そうです。宝石を止める爪の形も最近のものとは違うようですし……」
刻印?
ああ、K18とかそういうやつ?あれって世界基準だっけ?いったいいつから刻印されるようになったのかな?
社長の指輪、私もよく見てなかったけど刻印がないんだ。
ってことは、偽物の可能性が高いか、本当に古い品か……。
社長、騙されてないですよね……一気に不安が高まる。




