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「涼子さんすごい……キーボードを叩くリズミカルな音……」
はぁ、なんだか、前の会社では取り立てて褒められるようなことでもないことを、あんなに褒めてもらえるのも居心地が……。
「社長は、宝石を分けてもらえますか?さすがにそれだけ大量の宝石を一度に持ち込むのは不自然というか……すべて本物だった場合、とんでもない金額になると思うんです。それで、何か問題が起きてもいけませんので……」
と、言いつつ何が問題になるのかと考える。
一番は、盗難が怖いかな。会社に宝石は置いてあるんだよね?金庫とかにちゃんと入れてあるのかな。防犯カメラはついていても、それだけじゃ……。とりあえず会社名は出さないで行った方がいいかもしれないですね。
どこから情報が洩れるか分からないですし……。
「まずは5つ6つ持って鑑定してもらいましょう」
「分かりました。えーっと、どれにしようかな」
社長が宝石を選び始めたのを確認してから、店をピックアップしていく。
「涼子さん、ほしいものないですか?」
は?
いつの間にか社長が机の横に移動して、鞄を開いて目の前に差し出している。
「私のほしいもの?どういう意味でしょうか?」
社長がニコニコと笑っている。
「えっと、現物支給のボーナスに渡す分は売らずに取っておこうと思って。涼子さんが気に入るものをせっかくなら……」
確かに、求人票には現物支給というようなことも書いてあった。
5カラット以上ありそうな宝石ばかりが並んでいるんですけど。一番安そうな物でも、一生買うことがないような宝石ばかりだ。
公務員のボーナスっていくらだっけ……。それを超えるような金額にしか見えない。
……素直にありがとうございますと言って受け取りにくいんですが……。
「えーっと……」
どう答えていいものか困る。とりあえず鑑定してもらって本物かどうか、それからいくらくらいのものなのかがわからないと。気軽にこれが気に入りましたと言って、それがうん億万円だったらと思うと、背筋が寒くなる。ラッキーなんてとても思えない。不幸になる未来しか想像できない。ほ、ほら、宝くじも高額当選者は突然大金を手に入れて不幸になる人が多いって聞くし。
「あまり、その、気に入るものは……ないで……す」
高そうで気に入らないんだから、嘘じゃない。
それに、どれも身に着けたら邪魔になりそうだ。指輪も石が大きくて引っ掛けそうだし。ネックレスはパーティードレスくらいにしか合わなそうな豪奢なデザインをしているし。ファビアラスな方には似合いそうだけれど……。
「あー、そっか。うん。ごめんね」
なぜ、謝るんでしょうね。
「まりにも趣味悪いって言われたんだよね。僕は全然こういうセンスがなくて……売れるかなぁ……」
社長が落ち込んでしまった。
「似合う人には似合うと思うので、売れると思いますよ?」
と慰めの言葉をかける。
「似合う人には似合う?僕は、これなんか涼子さんに似合うと思うんですっ!」
言うが早いか、社長が一つの指輪を手に私の指にはめた。
「!」
よりによって、左手の薬指……っ!
「しゃ、社長っ!」
たぶん社長に深い意味はないし、うっかりしただけだし、その……。
慌てて指輪を引き抜きベルベットの上に戻す。
「女性の指に指輪をはめてはダメですっ!帽子をかぶせるのとじゃ意味合いが違うんですからっ!」
社長が顔を青くした。
「あ、ご、ごめんなさい、涼子さんに本当に似合うと……悪気はなくて、いや、セクハラとかその、そういうつもりもなくて……」
そのまま、机の上に額がごつんとぶつかるくらい頭を下げた。
「で、でも、その、右手だったから、セーフということで、えっと……」
は?右?
「社長、左手です……」
「え?でも、こっち右……あ!」
向かい合っているんだから、社長の右は私の左ですね。それに気が付いたようで、再び社長が頭を下げた。




