プロローグ
「平和だねえ……」
僕は隣に腰掛けているメテムにそう声をかけた。
メテムはと言えば、器用に口にどら焼きを咥えながら何か紙切れを見ている。
まあそっとしておこうか。
僕はゆっくりと体を伸ばし、ここ浅草寺を眺めた。
浅草は言うまでもなく東京の有名な下町で、日本らしさが残った場所だ。
外国の友達が来たら良く案内するし、彼らは決まって喜ぶ。
メテムもそれは例外ではないらしく、一度案内してからは都度都度来るようになった。
浅草のお気に入りが今咥えているどら焼きだ。
東京三大どら焼きの一つ「亀十」のどら焼きは、パンケーキのようにふっくらとして大きな皮で包まれているのが特徴で、その味は流石というべく美味しい。
メテムは黒餡がお気に入りのようだが、僕は白餡を好んで食べた。
メテムと一緒に浅草寺の縁に座り、境内で買った緑茶と一緒に食べるこの瞬間は。とても大切なひとときだ。
「うーん……」
ゆっくりしていると、隣からメテムがうめき声を上げた。
「メテム、さっきから何見てるの?」
そう言いながら僕は紙切れを覗き込むと、果たしてそれは世界地図だった。
もちろん我らが地球の、だ。
「なあ、ユウキ、この辺って一体何があるんだ?」
メテムが指すのは俗に言う中央アジアのエリアだった。
「中央アジアってとこだよ。行ったことないけど、馬に乗って、鷹狩してるイメージがあるなあ」
「馬に乗って鷹狩? お前結構適当なこと言ってないか?」
「いや、当たらずといえども遠からず、だと思う。そんなイメージ」
「ほんとかぁ?」
メテムが全くもって信じてない疑いの目を向ける。
「それじゃここはなんだ?」
今度は中央アジアよりもさらに西を指す。
「中近東かな。なんだか危ない印象があるよ。テロリストとか……」
「ふむふむ、一体何があるんだ?」
「さあねえ、独特の文化だから……。女性は顔を隠してるぐらいしか知らないよ」
「顔を隠してる? なんだそりゃ」
「いや、顔を見せちゃいけないようなシキタリがあったような?」
「んじゃこの大陸は?」
「そこはアフリカ大陸。草むらに動物がいるようなイメージ。キリンとかライオンとか」
それだけ言うと、メテムは僕に呆れたような眼差しを向けた。
「……お前な、何も知らないんだな」
「いや、メテムが指したエリアってさ、日本人は馴染みが全くなくて、情報が入ってこないんだよ。ヨーロッパとかアメリカなら分かるんだけど。いや本当に」
慌てて弁明する僕に、メテムは何か思い立った表情を浮かべた。
「よし、んじゃまあ行く場所は決まったな」
そう言うとニヤリと笑う。
「え? 次の旅行先?」
「そう、まずはここから、こー行って、こー回って、こー進み、ここで終わり」
そう言いながらメテムは中央アジアと中近東とアフリカを適当になぞった。
「メテム、それ、流石に一筆書きっぽくは行けないんじゃ……」
僕は不安になりながら伝える。
でも返ってきたメテムの声は、何一つ心配さを感じさせない明るい声だった。
「いけるさ。陸続きだしな。最悪歩いてでも行くさ」
「歩くって……そんな無茶な……」
そう心配している僕に、メテムは挑戦的な顔を向けた。
「何だ? お前、私についてくるんじゃないのか? 旅ぐらしするんだろ?」
そういうとニンマリと笑みを顔中に浮かべる。
こうなってしまったらもう止める術を僕は知らない。
「わかった、わかったよ。君にどこまでもついていくよ」
両手を挙げてそう宣言する僕に、メテムは勢いよく立ち上がった。
「早く来いよ、付いて来ないと置いてくぞ」
地図を僕にバサッと投げて、メテムは浅草寺の階段を降りていった。
遂に始まりました「中央アジア・中近東・アフリカ編」。
今回は今まで以上に勝手気ままに進みますよー!
大体の旅程は立てているのですが、そこはメテムのことなのでどうなることやら!
更新頻度は結構遅めですが、できれば年内完結を目指してます。
気長にお待ちいただければ嬉しいです。
というわけで、メテムとの旅、楽しんでもらえればー!




