第8話 家に残る人、畑へ行く人
「はい。私の意思で、お引き受けします」
答えると、ブリヤン様が父だった方の前へ回り込みました。
「私を追い出して、この女を娘にするのか!」
「順番に確認してきただろう。お前たちの離婚も、後継者指定の解除も済んだ。その後の話だ」
伯爵は、これから正式な養子縁組と、私を後継者とする登録を進めると説明しました。親族の同意と、実家の承諾は得てあります。
先に私を娘にしてしまっていたら、夫婦である間の身分関係までおかしくなります。そういうところは、きちんと確かめてから用意したのです。
「それから、ブライト」
伯爵に呼ばれ、ブライト様が私の隣へいらっしゃいました。
バーント伯爵の次男で、デイヴィス様の甥に当たる方です。私が後を継ぎ、ブライト様を婿に迎えることで、パーマネント家の血筋も次へつながります。
ただ、それだけで私の結婚相手が決まったわけではありません。
「離婚が成立したら、改めてお願いすると約束していましたね」
「はい」
「ラベンダー様。私と結婚していただけますか」
親戚の独身男性を紹介していただく中で、この方とも何度かお話ししました。初めは皆様とご一緒のお茶で、それから領地の仕事についての相談でも。
お会いする前には、次こそお役目を果たせる相手を、と考えていた私が、この方となら食事の時にも話せるだろうかと、考えるようになっていました。
私がお気に入りの本のお話をすると、どこが面白かったのかと尋ねてくださいます。ブライト様の説明がわからず聞き返すと、言葉を変えて、もう一度話してくださるのです。
知らないことがあるたびに、教養を疑われる心配がありません。
「私の方からも、よろしくお願いいたします」
お答えすると、ブライト様はほっと息をつきました。
「よかった。皆様の前でお断りされたら、書類を片づける手も震えるところでした」
「それでしたら、ペールがお手伝いしますわ」
「私の仕事がなくなってしまいます」
後ろでペールが、「お任せくださいませ」と答え、バーント伯爵夫人がとうとうお笑いになりました。
元夫は、私たちの間へ割って入ろうとします。
「お前も、よその男と!」
「親族のお茶と、仕事の相談には私たちも同席していました。何か確かめたいなら、私に聞きなさい」
グレイ子爵夫人が、すぐにお答えくださいました。
ブライト様は私の前に立ち、元夫へご自分の手を示します。
「結婚を申し込むのも、手を取るのも、今日まで待ちました。これからのことは、私たちで決めます」
それからこちらへ差し出された手へ、私は自分の手を重ねました。
スカーレット様が元夫の服を引き、今度こそ座らせます。ご自分との再婚よりも、私の再婚に熱心になられては困るのでしょう。
「それでは、お話が済んだのでしたら、農場の件をお伝えしてもよろしいでしょうか」
帽子を取り上げたマースさんが、伯爵に尋ねました。
用意された住まいは、農場の空き家です。寝室が二つと、台所と居間。使用人用のお部屋はありません。
家賃と賃金、引き受ける仕事は、それぞれ本人が条件を確かめて契約します。行くのを断り、ご自身の資金で別の暮らしを探すこともできますが、この屋敷に居続けることはできません。
「え…… 何ですって? 私に、畑で働けと?」
元夫人が、露骨に顔をしかめました。
「ああ、炊事場の仕事もありますね。掃除と洗濯は、自分たちで。お食事を共同の炊事場で取る場合は、食費を支払ってください」
「あ、あなたが作ってくれればよいでしょう。昔から、よく働いたのだから」
「私には農場の仕事があります」
マースさんは、ご自分の一日が三人の都合で空く予定はない、と説明しました。
スカーレット様の仕事は、体調に合わせて種の選別などから。医師にかかる費用と出産のためのお金は、二人の手持ちから先に確保するよう、こちらも本人たちへ確認します。
子供が生まれれば、その世話を誰がするかも相談しなければなりません。
「でも、ブリヤンが何とかしてくださるわ」
スカーレット様が元夫の腕へつかまると、相手は自分の預金でどれだけ暮らせるか、目録を読み始めていました。
運命の恋にも、残高を確かめる時間は必要なようです。
*
さて、半月後、私は正式にデイヴィス・パーマネント伯爵の養女となり、後継者としての登録も終えました。ブライト様との婚約も、両家の承諾を得ています。
三人は結局、農場の住まいを選びました。ほかの家を借りれば人も雇わなければならない、と元夫人がおっしゃったそうです。農場でも、その役目をマースさんが引き受けるわけではありませんが。
領地の仕事で訪れた私とブライト様は、マースさんに案内され、三人の家の前を通りました。
庭先では、元夫が薪を運ぼうとしています。大きな籠を丸ごと持ち上げようとして動かせず、マースさんに、小分けにして運ぶよう言われました。
「最初から、そう言え!」
「先ほど言ったぞ。二度に分けて、と」
台所から元夫人が、洗い物に使うお湯はまだかと叫びます。窓際ではスカーレット様が種を分け、私たちを見つけるなり、元夫を呼びました。
「ブリヤン! ラベンダー様たちが見ているわ。もっと立派に運んで!」
「だったら、お前が持てばよいだろう!」
マースさんが、籠から半分だけ薪を取り出して元夫へ渡しました。
「まず、それを台所へ。見栄えのよい持ち方は、運べるようになってから覚えろ」




