第7話 嫁ぐ前から存じております
「それじゃ…… それじゃ父上は、最初から、私を追い出すつもりだったのか」
ブリヤン様が、テーブルに手をつきました。
その手にカップが触れそうになったので、私は自分の分を少し寄せます。離婚は済みました。ここから先まで、この方の粗相に付き合う必要はありません。
「私がお話を伺ったのは、学院を卒業した後です。十八歳の時でした」
伯爵が実家へ縁談を持ち込んだ席には、父と母、それから私がいました。
クリムソン侯爵夫人は私の継母ですが、ほかの姉妹と分け隔てなく育ててくれた方です。私はその両親に恩を返せる結婚をしたいと、以前から伝えていました。
ただし、ひどい扱いを受けながら耐えることを、両親が望んでいたわけではありません。
「伯爵様は、伯爵家と侯爵家の結びつきを強めたいとおっしゃいました。同時に、ご長男の出生に疑いがあり、それを確かめていることも」
「そんな話を、嫁ぐ前の娘に!」
「嫁いだ後で知らせる方が、よほど不誠実だろう」
冷ややかな伯爵の返答に、ブリヤン様は私を見ました。
「お前の父親は、知っていて嫁がせたのか」
「はい。私も承知して、お受けしました」
伯爵家には、領地を継ぐ者のそばで仕事を担い、親族とも相談できる人が必要でした。
私がその家で暮らせるか、夫婦としてやっていけるかを確かめる。難しければ実家へ戻る。その上で、私自身に希望があれば、別の形で家を継ぐ道も考える。
伯爵は後継者を選び直す可能性まで、両親と私へ説明なさいました。
侯爵家にとっても、娘が伯爵家の運営を担い、将来にわたる結びつきを持つ利益があります。何もかも隠された縁談へ、庶子だからと私だけが差し出されたのだと、お思いでしたら違います。
「お前は、私が本当の息子でないと知って、笑っていたのか」
「笑っていたのは、私を庶子だとおっしゃったブリヤン様でしょう」
初夜の言葉を思い出したらしく、元夫は口を曲げました。
私は、生まれについて何度も聞かされるたび、この方はご自分の家の事情を知ったらどうなさるのかと思っていました。
答えは、今、目の前にあります。ご自分の言葉を振り返るおつもりは、少しもないようでした。
「では、私に何をさせるつもりだったのだ! 機嫌よくお前を愛せば、跡取りのままでいられたとでも言うのか?」
「妻への礼を守り、自分の仕事を引き受ける。それは、お前自身の暮らしに必要なことだった」
私の代わりに伯爵が答えました。
「出生を確かめた後も、お前に家を任せられると判断すれば、事実を公にした上で、養子として継がせる道を親族と相談できた。お前を育てた年月まで、偽りになるわけではない」
「だったら、そうすればよいではありませんか!」
「今のお前には任せられないと、判断したのだ。それすらも分からないのか?」
元夫は私へ、どうにかしろと言わんばかりに顔を向けました。
この方のお仕事を、今日も私が代わりに片づけるおつもりでしょうか。
「三年は、短かったとは思いません。お義父様も、叔父様方も、何度もお話をなさいました。私も、ご相談したいことがあると申し上げました」
「私には私の考えがあった!」
「はい、そのお考えで、今朝、離婚をお決めになったのですね」
ご自分のお考えを尊重すると怒られます。いったい、どこをお手伝いすればよかったのでしょう。
義母だった方が、息子の前へ腕を出しました。
「酷い…… 皆して私たちを試していたということね。なんて性根の悪い娘なの」
「私から寝室を別にするようお願いしたことはありません。侍女への指図も、ヴァイオレット様がお出しになりましたね」
「それは、この家の夫人として――」
「そのお立場でなさったことを、先ほど確かめていただきました」
スカーレット様が、お腹を両手で支えながら割って入ります。
「そんな! 私のせいだとおっしゃるの? 私とブリヤンは、運命で結ばれたのよ。誰にも止められなかったのです」
「止めておりませんわ。どうぞ、お二人でお暮らしください」
そのために離婚したのですから。
ここで「彼を返してください」とでも申し上げれば、ご満足いただけたのでしょうか。返却する窓口があるのでしたら、私は三年前に利用したかったところです。
伯爵は、私が実家へ帰る準備をする代わりに、領地の仕事を覚え、親戚の皆様との相談を続けていたことも説明しました。
三年で今後を決めるという約束は、実家と交わしたものです。今日、離婚の申し出がなかったとしても、このまま暮らすつもりはありませんでした。
先にご自分から宣言していただけた分、元夫のご希望も、皆様に確かめていただけましたが。
「だが、離婚したお前が、この家にいる理由もないだろう」
ブリヤン様が、ようやく言い返すところを見つけたように顔を上げました。
「私は出ていく。なら、お前も出ていけ。この家とは他人になったのだからな」
「その前に、ラベンダー本人に確かめたいことがある」
伯爵が私へ向き直りました。
「ここに残り、私の養女として家を継いでくれるか」




