第3話 運命にも支払いはあります
「あ、出会いについては結構です。ブリヤン殿との関係を再開した時期を伺います」
審理官の言葉に、スカーレット様は少し残念そうにしました。
幼い日の思い出から始めたかったのでしょう。夫も椅子に座り直し、こちらの出方をうかがっています。
「再開だなんて…… 私たちの心は、ずっと結ばれていましたわ」
「あなたは、つい先頃まで別の方の妻でしたね」
「ええ。でも、間違いだったのですわ! あの結婚は」
間違いのあった場所を伺いたいのに、間違いだったという感想が返ってきます。
スカーレット様は四か月前、男爵家から離縁され、ご実家へ戻りました。浪費が理由だったと、義母自身が私に教えてくださったのです。
その時の義母は、「お金のことばかり言う、つまらない男爵」と、たいへんご立腹でした。
「夫だった人は、贈り物一つで小言を言うのです。私が夜会に出る時くらい、美しいドレスを着たいと思うのは当然でしょう?」
「ご実家では、その費用をお出しになっているのですか」
「父まで、しばらく外出を控えろと申しまして。娘が傷ついて帰ってきたというのに」
嫁入り先と実家から続けて同じことを言われても、周囲に問題があるとお考えになる。その自信だけなら、少し分けていただきたいものです。
もっとも、持っていても使い道に困りますが。
「そんな私に、ブリヤンだけが優しかったのです」
スカーレット様は夫の手を取りました。
「ここへ参りましたら、昔と同じように迎えてくれて。『私の心は今も君のものだ』って……!」
「ああ。ずっと待っていたからな!」
私との結婚三年間も、待ち時間に含まれているようです。
四か月前、スカーレット様がこの屋敷へいらした日には、私も居合わせました。義母と三人でのお茶へ呼ばれたのに、夫が入ってくるなり、私だけ厨房へ追加の菓子を頼みに行かされたのです。
使用人を呼ぶ紐が、義母のすぐ横にありました。ご指示の趣旨は、たいへんわかりやすいものでした。
戻ると、スカーレット様は夫の胸へ顔を押しつけ、夫はその肩を抱いていました。
「二人になったのは、その日が最初でしょうか」
「ほら、やはり嫉妬していたのね!」
私が尋ねると、スカーレット様は待ちかねたように顔を上げました。
「ラベンダー様、貴女、あの日のこと、ずっと覚えていたのでしょう。私たちの間には、誰も入れないとわかって」
「追加のお菓子を頼んだ本人ですので」
そう答えると、スカーレット様は微妙な顔をしました。はて、どう答えてほしかったのでしょうね。
あの時、厨房では、初めに出した分がまだずいぶん残っていると首をかしげられました。私が首をかしげたいのは、食堂に座ったままの三人の方でした。
審理官はスカーレット様の返事を待ち、改めて同じ質問をしました。
「ええ、あの日ですわ。それからも会っております。おば様がお部屋を使わせてくださったり、観劇のお席を取ってくださったり」
「わかったわ、スカーレット。そのくらいで」
義母が止めましたが、その息子の妻になるおつもりの方は、よいことをした報告を続けたいご様子でした。
「だって、もう隠さなくてよいのでしょう? 先月、具合が悪くなった時にも、ブリヤンがすぐにお医者様を呼んでくれて」
「妊娠についての証書は、こちらですね」
審理官が夫から受け取った封書を開きます。
夫は、そのために用意してきた医師の証書を、先ほど得意げに提出していました。愛の深さには証明を求められませんでしたが、妊娠の事実には必要です。
私たちも今朝の申し出を予想して準備していました。夫が自分から、親戚の前で再婚の了承を得たいと言い出したのですから、話が早かったのです。
「離婚前からの交際と、妊娠の時期については確認できました。ラベンダー殿に、お子がない原因があるとするお話は撤回なさいますか」
「待ってください。私が彼女を妊娠させたのですから、私に問題がないのは明らかではありませんか」
夫が胸を張ると、義父の右隣にいたバーント伯爵が、とうとう額を押さえました。
「ブリヤン。お前は妻の部屋へ行っていないと、さっき自分で認めただろう」
「ですから、愛情がなかったのです」
「それが妻だけを責める理由になるのか? と尋ねているんだ」
するとスカーレット様が、私たちの方へ身を乗り出しました。
「どうかどうか、もうお責めにならないで! 私たちは子供のためにも、幸せにならなくてはいけませんの」
「で、そのお子様と、お二人の暮らしは、どのように支えるご予定ですか」
思わず伺うと、二人はそろって私を見ました。
「は? 私が跡取りだということを、お前は忘れたのか」
「そうですわ! これからは私が、伯爵家の家族になりますのよ。ラベンダー様には、ご心配をおかけしませんわ」
夫の手元には、私が整えたまま一度も開かれていない、今月の仕事の予定表があります。今朝、執事が確かめるよう差し出したものです。
これを開くご予定さえない方が、三人分の生活を引き受けられるとお考えでした。
私は義父へ顔を向けます。
「お義父様。お二人とも、継承を前提になさっているようですが」
「そのようだな。では、先にそちらを確かめよう」
義父が一通の古い封書を取り出すと、義母は伸ばしかけた手を自分の膝へ戻しました。




