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夫が出戻り従姉妹との結婚を宣言しました。ではお義父様、例の件をお願いいたします。  作者: さんけい


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2/10

第1話 愛さないそうですので

「は? 私は、妻を不当に扱った覚えなどありませんが」


 離婚を求める理由を尋ねられ、夫はまずそう答えました。

 理由ではなく弁明から始まったのは、私の侍女たちが抱えているものが、さすがに気になったからでしょう。


「ただ、夫婦としての愛情が育たなかった。それに、子供もできなかったのです」

「ラベンダー殿。ご異存は?」

「はい、子供ができなかった理由について、補足をお願いいたします」


 審理官が筆を止め、こちらを向きます。

 夫の隣では、義母が待っていましたとばかりに口を開きかけましたが、私は先に続きを申し上げました。


「私、夫とは、結婚した晩から一度も同衾しておりません」

「ラベンダー!」


 夫が勢いよく立ち上がり、椅子を後ろへ押しました。


「お、お前、親戚の前で、何ということを言うんだ!」

「子供のお話をなさったのは、ブリヤン様でしょう」


 親戚の皆様に妊娠の仕組みから説明する必要がなくて、助かります。

 バーント伯爵夫人は夫へ椅子に戻るよう手で示し、グレイ子爵は書記の筆が追いつくのを待っています。

 私は三年前の晩に言われたことを、できるだけ正確に繰り返しました。


「貴方は『お前を愛することはない』と、おっしゃいました。『永遠に愛する女性は別にいる。侯爵令嬢といっても、お前は庶子だ。私の心まで手に入ると思うな』とも」


 ああ、今でもはっきりくっきり思い出せますわ。

 結婚式を終え、重い髪飾りを外し、やっと一息ついたところでした。私が椅子に座るより先に、夫はご自分の心の所有権について宣言なさったのです。

 私はまだ、夫のお好きなスープさえ存じませんでした。心までいただこうとは、ずいぶん先の話です。


「そのお言葉に、私は承知したとお答えしました。すると、その晩から別々の部屋で暮らすように、と」

「う、嘘はつくな。お前だって、その方がよいと言っただろう」

「はい。ですから承知した、と今も申し上げましたが?」


 審理官が、夫の発言も記録するよう書記に促します。

 夫はそちらを見てから、急いで言い足しました。


「つまり、妻も同意していたのです。私だけを責めるのは筋違いだ!」

「別室で暮らすことへの同意と、子がない責任の所在は、それぞれ確認いたします」


 結婚の初日にこれだけはっきり告げていただいたので、私も余計な期待を抱かずに済みました。

 翌朝、義父にはそのまま報告していました。新婚早々のお話としては気まずいものですが、先々の継承に関わることを黙っておくわけにもいきません。

 義父は私の実家へ連絡し、一度帰って考えてもよいと言ってくださいました。

 私が選んだのは、この家に残り、引き受けた仕事を続けることです。義父には相談できましたし、三年という区切りを決めて状況を確かめることも、実家と話し合っていました。

 あ、もし夫への献身を誓って踏みとどまった、というお話をお望みでしたら、申し訳ございません。


「寝室の件は、私も当時から把握していた」


 義父が証言すると、夫は露骨に顔をしかめました。


「お前…… 父上にまで告げ口していたのか」

「跡取りの婚姻生活について、当主であるお義父様へ報告しましたが?」

「そんなことまで父上に頼るから、お前は可愛げがないんだ」


 おやおや、可愛げをご所望だったのでしょうか。初日にお断りされたつもりでしたが。

 そこへすっと侍女のローズが手帳を開くと、夫は今度はそちらをにらみます。


「夜のことを侍女が知るはずがないだろう」

「お部屋へお入りにならなかったことでしたら、存じております」


 ローズは審理官へ一礼しました。


「私は婚礼の翌日からラベンダー様付きとなり、夜の支度を担当してまいりました。旦那様は一度も、ラベンダー様のお部屋でお休みになっておりません」

「私も、朝のお支度を担当しております。旦那様のお部屋の品をこちらへ移したことはございません」


 もう一人の私づき、メイドのペールが続けると、夫は二人から私へ視線を戻しました。


「そ、それは…… お前が近寄り難くしていたからだ」

「どのようにでしょう?」

「何でも一人で済ませて、私のところへ来ようともしなかった」


 それは初耳ですね。私、永遠の愛の持ち主が別にいるとおっしゃるので、ご遠慮していたのですが。扉を叩く順番待ちでもしているべきだったのでしょうか。

 それでも、必要なお話をしに伺ったことはあります。


「確か、領地から届いた挨拶状のお返事をお願いした時には、『お前が書けばよい』と。慈善会へご一緒いただきたいとお願いした時には、『女の集まりに用はない』と、おっしゃいましたね」

「細かいことを、いつまでも」

「私はその細かいことを、三年間担当いたしました」


 初めのうちは、夫の分の予定も書いてお渡ししていました。返事を待つ間に先方への連絡が遅れるので、義父の了承を得て、自分で進める範囲を決めたのです。

 夫は私が何でも勝手にするとおっしゃいますが、許可を取りに行くたびに追い払ったことは、きれいにお忘れのようでした。


「もうよいでしょう? この二人には愛のない結婚だった。それで離婚に応じたのですから」


 義母が割って入り、私へ手を振ります。


「ねえラベンダーさん、夫に求められるよう、妻が努力することだって必要なのよ。それを、今さら私たちのせいにされても困るわ」

「お義母様のお話も、これから伺いたいそうです」


 ペールが書類箱から、一通の封書を取り出しました。

 義母が三年前、私の侍女の配置について出した指示です。封筒には、この家へ来たばかりの私にも覚えのある、紫色の封蝋がついていました。



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