泥臭い夜戦(後編)〜無双薙刀流・解放〜
泥臭い夜戦(後編)〜無双薙刀流・解放〜
死を告げる風切り音が、夜の闇を引き裂いた。
「ギシャアアアアアアッ!!」
複数の死蟲機が融合した悪夢のような巨体、『死蟲将軍機』が、マンミアの頭上へと跳躍していた。
月明かりに鈍く光る大鎌の腕が、死刑執行人のギロチンのように振り下ろされる。マンミアはパイルバンカー式シールド『アグニ』を反射的に頭上に掲げたが、直感していた。
防げない。重量と速度、そして装甲の硬度が違いすぎる。盾ごと両断され、自分は真っ二つになる。
(……お婿様を、背中に乗せる夢も……ここまで、ですか)
マンミアが目をギュッと瞑り、奥歯を噛み締めた、その瞬間だった。
キィィィィィンッ!!
鼓膜を劈くような甲高い金属音が響き、頭上から降り注ぐはずだった絶対的な死の圧力が、ふっと横へと逸れた。
マンミアが恐る恐る目を開けると、そこには、信じられない光景が広がっていた。
「……遅れてすまない、なんてな。患者を置いて死なれると、医官のカルテに傷がつくんでね」
そこには、ダークグレーのパーカーを翻した中村優太が立っていた。
彼は、身の丈ほどあるジェネラルの大鎌を、手に持った特殊な『薙刀』の柄と刃の根本で受け止め、そのまま滑らせるようにして軌道を逸らしていたのだ。
力任せに受け止めたのではない。
『戸田派武甲流』の理合い――長兵器を用いた間合いの支配と、刃筋の流し。そして、ロシアの軍隊格闘術『システマ』による完全な脱力が、数トンに及ぶ大鎌の衝撃を地面へと受け流していたのである。
「ギ、ギギッ!?」
必殺の一撃をありえない方法で逸らされたジェネラルが、バランスを崩して体勢を前のめりにする。
「マンミア、下がれ! コイツの骨格は俺が外す!」
「ゆ、優太殿っ……! ご無事で!」
優太の背中に後光すら幻視したマンミアが、言われた通りに後方へ飛び退く。
直後、ジェネラルは怒り狂ったように体勢を立て直し、もう片方の刃腕を優太の胴体へと薙ぎ払ってきた。
ブォンッ!という凄まじい風圧。木を真っ二つにする一撃。
だが、優太の身体はそこにはなかった。
彼の身体は、システマ特有の波打つような歩法で、大鎌の下をくぐるようにしてジェネラルの『懐(ゼロ距離)』へと潜り込んでいた。
(コイツの装甲は硬い。クレイモアの爆風を耐え抜いたんだ、薙刀の刃を正面から叩きつけても弾かれる。ならば――)
優太の脳内で、八つの武術がシームレスに結合する。
『八極拳』。
ドンッ!と、優太の右足が大地を強く踏み鳴らした(震脚)。
大地から吸い上げた反発力を、腰の捻り、肩、そして肘へと伝達させる。
「フッ!」
短く鋭い呼気と共に、優太の肩と肘が、ジェネラルの腹部――硬い甲殻の継ぎ目へと叩き込まれた。
八極拳・『鉄山靠』。
中国武術における、近接体当たり打撃の最高峰。優太の74キロの体重と、踏み込みの加速度、そして筋肉の爆発的なバネが一点に集中した打撃は、大型ダンプカーが激突したかのような衝撃を生み出した。
「ギギャアアアアアアッ!?」
外殻こそ割れなかったものの、内部の構造に強烈な浸透ダメージを受けたジェネラルが、堪らず大きな悲鳴を上げて仰け反る。
「まだだ。ここからが『往診』の時間だ」
優太は一瞬の隙も見逃さない。
ジェネラルが仰け反り、カマキリのような長い前脚の『関節』が、甲殻の隙間から露わになった。
優太は右手で薙刀を片手持ちにして敵の刃を牽制しつつ、空いた左手でシークレットホルスターから『折りたたみ式タクティカルナイフ』を逆手で引き抜いた。
フィリピン武術『サヨック・カリ』。
刃物を用いた超近接格闘において、敵の動脈や腱を一瞬で切断し、戦闘能力を完全に無力化することに特化した殺人術。
シャッ、シャッ、シャッ!
銀色の閃光が、夜の闇に三本の線を描いた。
力は要らない。解剖学を熟知した医官の知識が、生物(あるいは生体機械)の最も脆い結合部――腱と靭帯を正確に削ぎ落としたのだ。
「ギヂヂヂヂヂヂヂヂッ!?」
大鎌を振り上げようとしたジェネラルの右腕が、ガクンと力なく垂れ下がった。
筋肉と装甲を繋ぐ腱を完全に切断されたのだ。もはや大鎌を振り回すことはできない。
痛覚があるのか、ジェネラルは残った左腕を狂ったように振り回し、優太を叩き潰そうと暴れ狂う。
「フゥ……」
優太は短く息を吐き、バックステップでその狂乱の刃を紙一重で躱していく。
彼の戦い方は、なろうの主人公によくある「圧倒的な魔力や闘気で敵を消し飛ばす」ようなものではない。
極限まで無駄を削ぎ落とした身体操作と、人体の構造を熟知した医学的知識。それらを掛け合わせた、どこまでも『泥臭く、冷徹なプロフェッショナルの仕事』だった。
「す、すごいです……!」
後方に逃れたマンミアは、震える声で呟いた。
彼女には見えていた。優太は魔法も闘気も一切使っていない。純粋な身体能力と技術だけで、あの絶望的な巨体を翻弄し、着実に死へと追い詰めているのだ。
(なんて美しい戦い方……。命を救う手が、命を奪う時もこれほどまでに洗練されているなんて。私のお婿様は、やはりこの方しかいませんわ……っ!)
マンミアの瞳が、完全にハートマークになっていた。
一方、後方のCCP(救護拠点)でその光景を暗視装置越しに見守っていたキャルルは、唇を噛み締め、特注の安全靴をギリギリと地面に擦り付けていた。
(ああ、優太さん……カッコいい。最高にカッコいいです。でも、あの化け物、優太さんに刃を向けましたよね? 私の、私だけの優太さんに……ッ!)
キャルルの中で、ヤンデレのメーターが臨界点を突破した。
彼女の全身から、月兎族の特異な魔力と闘気が、淡い蒼光となって立ち昇り始める。
「――優太さん。あとは、私がやります」
キャルルの声は、無線越しでもわかるほどに、底知れぬ殺意と愛に満ちていた。
「ギシャアアアアッ!」
腱を切られた右腕を引きずりながらも、ジェネラルは最後の力を振り絞り、左腕の大鎌と、口からの強酸ブレスの同時攻撃を優太へと放とうと身構える。
だが、優太はそれに応撃する構えを見せなかった。
彼はタクティカルナイフをホルスターにしまい、ワスプ薙刀を悠然と肩に担いだ。
優太の戦闘ドクトリン、『1人で無双はしない』。
自分がやるべき仕事(ヘイトを稼ぎ、敵の防御力を剥ぎ取り、関節を破壊する)は、完璧に終わった。あとは、最も火力のある仲間に『トドメ』を刺させるだけだ。
「おい、キャルル。……あいつの顔面、少し形が気に入らない。俺の代わりに、綺麗に『整形』してやってくれないか?」
優太が口元にニヤリと笑みを浮かべ、通信石越しにそう告げた。
「――はいっ! 優太さんのためなら、喜んでぇぇぇっ♡」
直後。
CCPの陣地から、凄まじい轟音と共に、土煙が爆発したように巻き上がった。
月兎族の村長・キャルル・ムーンハートが、特注の安全靴で大地を蹴り砕き、クラウチングスタートの姿勢から、マッハに近いトップスピードで戦場へと射出されたのだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
優太のハイブリッド武術『無双薙刀流』の解放回でした。
力押しではなく、八極拳の打撃(鉄山靠)で体勢を崩し、サヨック・カリのナイフ術で関節の腱をスパスパ切るという、軍医ならではの冷徹な戦闘スタイルです。
そして、1人で無双せず、最後は仲間にトドメを任せるのが、大人の男・優太の流儀です。
「格闘描写カッコいい!」「関節切るのえぐいw」「キャルルがアップを始めました」
と少しでも興奮していただけましたら、
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次回、ついに決着!
ヤンデレ村長の必殺『流星脚』が炸裂します!
引き続きよろしくお願いいたします!




