決着の『流星脚』と、チームワークの勝利
決着の『流星脚』と、チームワークの勝利
ズンッ!!
大地が爆発したかのような轟音が響き、CCP(救護拠点)の周囲に土煙が巻き上がった。
月兎族の村長・キャルル・ムーンハートが、特注の安全靴で地面を蹴り砕き、クラウチングスタートの姿勢から一直線に戦場へと射出された音だ。
彼女の特性である月兎族の身体能力は、通常時でも100メートルを5秒台で駆け抜ける。それが今、優太への愛と、彼に刃を向けた『害虫』への凄まじい殺意によって闘気が限界突破し、ほぼマッハに近い速度へと跳ね上がっていた。
「死蟲機……よくも、私の優太さんに刃を向けましたね。その罪、万死に値しますっ!」
夜の森を切り裂く蒼い閃光。
あまりの速度に、周囲の木々の葉が衝撃波で巻き上げられ、彼女の通った軌跡には真空のトンネルが形成されていた。
「ギシャアアアアッ!?」
突如として迫る恐るべき殺意に、右腕の腱を切られた『死蟲将軍機』が反応する。
狂乱状態にある化け物は、残った左腕の大鎌を振り上げると同時に、口から強酸のブレスを吐き出そうと、醜悪な顎を大きく開いた。
直撃すれば、いかにキャルルの闘気コーティングがあろうとも骨まで溶かされる。
だが、その強酸が放たれるより一瞬早く、優太の冷徹なサポートが介入した。
「そっちは向かせない。……こっちを見ろ」
ジェネラルの側面から、優太が折りたたみ式ワスプ薙刀の柄で、敵の複眼をピンポイントで強打したのだ。
ダメージを与えるためではない。敵のヘイト(注意)を強制的に自分に向けさせ、ブレスの射線をキャルルの突撃軌道からズラすための『指揮官』としての仕事。
ジュワァァァァァッ!
ジェネラルの強酸ブレスは、優太が狙い通りに誘導したことで、誰もいない森の奥へと虚しく吐き出され、木々を溶かすだけにとどまった。
「よくやった優太! キャルル、今だァッ!」
後方で魔導対空砲を撃ち終えたネギオが、葉巻を咥えたまま怒号を飛ばす。
キャルルは一切の減速をすることなく、キルゾーンに残された瓦礫と、なぎ倒された巨木を蹴り上げながら、空中へと高く跳躍した。
その跳躍力、およそ20メートル。
月を背負い、夜空の頂点に達した彼女のシルエットは、まさしく月の女神のように美しく、そして――破壊神のように恐ろしかった。
「月影流奥義――」
キャルルは空中で身体を丸め、強烈な前傾姿勢から空中一回転。
遠心力と重力、そして自らの圧倒的な脚力を、タローマン特注の『鋼鉄芯入り安全靴』の踵に一点集中させる。
「『流星脚』ッッッ!!!」
急降下するキャルルの蹴りが、空気を切り裂きながらジェネラルの頭頂部へと突き刺さる。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
それは、ただの蹴りではない。
100メートル5秒台の突撃速度と、20メートルからの落下エネルギーが乗った飛び蹴り。
物理学的に計算すれば、およそ33,750ジュール。防弾チョッキを着た人間ごと、後方の岩盤へ叩き潰すほどの常軌を逸した運動エネルギーだ。いわゆる『メテオ・ストライク』である。
「ギ、ギギ…………ッ!?」
鋼鉄をも凌駕するジェネラルの頭部装甲が、キャルルの安全靴によって一瞬でひしゃげ、ひび割れ、そして――メシャァッ!という凄惨な音と共に、完全に陥没した。
内部の人工脳髄と動力機関が圧殺され、緑色の体液と火花が四方八方に爆散する。
巨体が痙攣し、断末魔の悲鳴すら上げることなく、ネクロキメラ・ジェネラルはその場にドスンッと崩れ落ちた。
完全なる沈黙。
五百の死蟲機を率いていた指揮官が、ここに完全に粉砕されたのだ。
ズザーッ、と地面を滑るようにして着地したキャルル。
土煙が晴れる中、彼女はすっと立ち上がり、パーカーの裾を軽く払った。その顔には、先ほどまでのヤンデレじみた殺意は欠片もなく、ぽわんとした、恋する乙女の笑みが浮かんでいた。
「ふふっ♡ 優太さんのために、綺麗に『整形』しておきましたよ!」
首から上が完全に消滅した化け物の死骸を背に、満面の笑みで振り返る村長。
そのあまりのギャップとエグい破壊力に、少し離れた場所にいたマンミアは顔を引きつらせた。
(む、村長……あなた、普段の可憐な姿からは想像もつかないほど、おっかない蹴り技を持っていましたのね……。もし私が優太殿に色目を使ったのがバレたら、私の頭もあんな風に……ヒィッ!)
マンミアはブルリと身震いし、そっと優太から距離を取った。
そんなことなど露知らず、優太は薙刀をホルスターにしまい、シークレットホルスターからアメスピを一本取り出して口に咥えた。
「ああ、見事な一撃だった。俺がナイフで関節を切るより、よっぽど確実で早い」
「えへへ……! 優太さんの完璧なサポートがあったからですよ! 私、優太さんがいれば、どんな敵だって粉々にできちゃいます!」
駆け寄ってきたキャルルに対し、優太は火を点ける前のタバコを咥えたまま、大きな手で彼女の頭をポンポンと撫でた。
「よくやった。……助かったよ、キャルル」
大人特有の、落ち着いた、それでいて心からの称賛。
その優しい手の温もりと低音ボイスに、キャルルの顔が一瞬にして真っ赤に染まった。
「ふにゃぁぁ……っ♡ ゆ、優太さんに、頭、撫でられ……はわわわわっ……」
キャルルは耳を限界までへたりと垂れ下げ、足から力が抜けたようにへたり込みそうになる。
ヤンデレの炎が、あまりの幸福感によって『デレ』の極致へと完全シフトしてしまったのだ。彼女の心臓は、もはや千切れんばかりの速度で早鐘を打っていた。
(ああ、もうダメです……! 私、優太さんになら何をされてもいい。優太さんのためなら、この身も心も、村の権利書も、全部捧げちゃいますぅぅぅっ♡)
完全に限界突破したキャルルが、うっとりとした顔で昇天しかけているところへ、のっそりとネギオが歩み寄ってきた。
「おいおい、戦闘中にイチャついてんじゃねぇぞ。……とは言え、五百の群れをこの程度の被害で全滅させるとはな。恐れ入ったぜ、優太」
「俺一人の力じゃない。お前たちの対空と分断、そしてキャルルのトドメがあったからだ。俺の流儀は『1人で無双はしない』だからな」
優太はそこでようやくマッチを擦り、アメスピに火を点けた。
深く紫煙を吸い込み、夜空に向かって吐き出す。
チームワークの勝利。そして、理不尽な暴力を極小の被害で退けたことへの、静かな安堵の煙だ。
「うぅ……終わった……? 俺の、俺のミスリルアーマーに虫の体液が……ぐすっ」
「黙りなさいフェイト。貴方は最初から最後まで胃液を撒き散らして倒れていただけでしょうが!」
いつの間にか起き上がっていたフェイトが、地面の端でしくしくと泣き、マンミアが容赦なく説教をしている。
その騒がしくも平和な光景に、優太はふっと口角を上げた。
だが、彼の仕事はこれで終わりではない。
『極大の善行・防衛行動を完遂しました。善行ポイント:20,000P を獲得しました』
視界の端に浮かんだシステムメッセージを確認し、優太はタバコを携帯灰皿でもみ消した。
そして、先ほどまでの『戦闘指揮官』の顔から、再び『医官』の顔へと切り替わる。
「よし、勝利の余韻に浸るのは後だ。マンミア、フェイト、動ける自警団員を総動員して、防衛線に倒れている負傷者を全てCCPへ運べ! かすり傷一つ見落とすな!」
「は、はいっ!」
「キャルル、昇天してる場合じゃないぞ。お前の回復魔法の魔力は残っているか?」
「はっ!? も、もちろん残ってます! 優太さんの頭ポンポンで魔力全回復しましたから!」
「よし、頼もしいな。俺が処置をして、お前が塞ぐ。夜明けまでに全員を前線復帰させるぞ」
優太はミリタリーリュックを背負い直し、医療キットの確認を始めた。
地獄の泥水に浸かり、それを綺麗に片付ける。
戦う医官にとって、戦闘の終了は『本当の仕事(トリアージと治療)』の始まりに過ぎないのだ。
「遅れてすまない、なんて言葉は二度と使いたくないからな。……行くぞ!」
優太の頼もしい背中を追いかけ、キャルルたちは意気揚々と救護拠点へと駆け出していった。
ポポロ村の夜は、まだ終わらない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
優太の指揮によるチーム戦と、キャルルの必殺技『流星脚』による大決着回でした。
優太はチートで俺TUEEEするのではなく、「敵の隙を作り、仲間にトドメを刺させる」という、味方の能力を最大限に引き出すリーダーシップを持った主人公です。
そして戦闘後すぐに「医者」の顔に戻るのが彼のプロフェッショナルなところですね。
「メテオ・ストライクの威力エグいw」「頭ポンポンで限界化する村長」「フェイト本当に何もしてねぇww」
と少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回、戦後のトリアージと、貯まったポイントで回す特大の『善行ガチャ』!
村のインフラがさらに進化します。引き続きよろしくお願いいたします!




