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戦場のトリアージと、医療用コンテナハウスの爆誕

戦場のトリアージと、医療用コンテナハウスの爆誕

 戦闘が終わった。

 だが、それは殺し合いが終わったというだけであり、兵士たちにとっての『戦場』が終わったわけではない。

「おい、そいつは『黄(中等症)』だ! こっちのテントへ運べ! 呼吸が荒い奴は『赤(重症)』だ、最優先で俺の前に連れてこい!」

 地下シェルターの入り口付近に急造されたCCP(負傷者集合拠点)。

 そこで優太は、血と泥にまみれながら、的確な指示を飛ばし続けていた。

 トリアージ。

 多数の傷病者が発生した際、限られた医療資源で一人でも多くの命を救うため、治療の優先順位を決定する残酷かつ絶対的な選別作業だ。

 優太は運ばれてくる自警団員たちを一瞥し、脈拍と呼吸を確認するや否や、迷うことなく色分けされたタグを彼らの腕に結びつけていく。

「優太さん、この人、お腹を……っ!」

「腸管が傷ついてる。キャルル、腹部を圧迫してろ。俺が縫う!」

 優太は医療キットから持続性吸収糸とメスを取り出し、信じられない速度で傷ついた臓器を縫合していく。

 地球の最新医療知識と、戦場をくぐり抜けてきた経験、そして何より『誰一人見捨てない』という強靭な意志が、彼の手元に神がかった精度をもたらしていた。

「よし、縫合完了! キャルル、魔法で細胞を活性化させろ!」

「はいっ! 癒やしの月光よ!」

 キャルルの両手から放たれる柔らかな蒼光が、縫合されたばかりの傷跡を滑らかに塞いでいく。

 現代医学の完璧な外科処置と、異世界の回復魔法のハイブリッド。

 本来なら回復魔法だけでは塞ぎきれない内部の壊死や感染症を優太が防ぎ、優太の外科処置だけでは時間がかかる細胞の癒合をキャルルの魔法がブーストする。

 二人の連携は、たった数十分で数十人の命を死の淵から引き戻していた。

「す、すごい……。なんて息の合ったコンビネーションなの……」

 負傷者を運んできたマンミアが、その光景を呆然と見つめていた。

 戦闘指揮官としての冷徹な悪知恵を見せた優太が、今は血だらけになりながら、一人ひとりの患者に声をかけ、励まし、治療している。

「おい、マンミア! ボーッとしてる暇はないぞ、次の患者を運んでくれ!」

「は、はいっ! ただいま!」

 マンミアは慌ててケンタウロスの馬力を活かし、同時に三人の負傷者を背負って運搬を始める。

 その横では、戦いでは胃痙攣で役に立たなかったフェイトが、泣きべそをかきながらも懸命に包帯を巻いたり、水を運んだりと下働きに奔走していた。

「うぅ……俺のミスリルアーマーが血と泥でドロドロに……。でも、俺のコイントスが裏だったおかげでみんな助かったんだよな……俺、ある意味英雄……」

「馬鹿なこと言ってないで手を動かしなさい、このポンコツ冒険者!」

 マンミアの容赦ない蹴りがフェイトの尻に入り、フェイトは「ギャンッ!」と悲鳴を上げて働きに戻る。

 そんな騒がしくも活気に満ちた野戦病院の片隅で、キャルルは優太の横顔を盗み見ていた。

 汗に濡れた前髪、真剣な眼差し、そして迷いのない手つき。

(ああ……優太さん。戦闘の時も素敵でしたけど、誰かのために命を削っている姿は、もっともっと愛おしいです……)

 キャルルは自分自身の魔力が枯渇しかけているのを感じていたが、優太の隣にいられる幸福感が疲労を完全に麻痺させていた。

(優太さんのためなら、私、血を吐いてでも魔法を使い続けます。だって……優太さんのこの熱い汗を一番近くで感じられるのは、世界中で私だけなんですから♡)

 ヤンデレ特有の激重な多幸感に浸りながら、キャルルは満面の笑みで回復魔法をかけ続けるのだった。

 ***

 ――そして、夜明け前。

 東の空が白み始めた頃、CCPに運び込まれた最後の負傷者の処置が完了した。

「……ふぅ」

 優太は血に濡れた医療用ゴム手袋を外し、大きく息を吐き出した。

 五百の死蟲機の群れを相手にして、ポポロ村の自警団に死者は『ゼロ』。重傷者も全員が命を取り留め、容態は安定している。完全なる勝利だった。

「優太さん、お疲れ様ですっ! タオル、どうぞ!」

「ああ、助かる。キャルルもよく魔力が保ったな」

 優太はキャルルから受け取ったタオルで汗と顔の汚れを拭いながら、周囲を見渡した。

 毛布にくるまり、安堵の表情で眠る隊員たち。

 だが、優太の顔にはまだ険しさが残っていた。

(今回は助かった。だが、ポポロ村の医療物資は圧倒的に足りない。俺のリュックに入っている携帯キットだけじゃ、次に大規模な戦闘が起きたら対応しきれなくなる……)

 この村を守り抜くためには、圧倒的な『拠点』が必要だ。

 優太は視界の端に浮かぶシステムウィンドウを呼び出した。

『極大の善行・防衛行動、および多数の人命救助(重大)を確認』

『善行ポイント:45,000P を獲得しました。現在の累計ポイント:65,000P』

 五百の魔獣を退け、数十の命を救った代償として、見たこともない莫大なポイントが貯まっていた。

 ガチャ一回が100Pであることを考えれば、途方もない数字だ。

(自分のための贅沢なんて要らない。このポイントは全て、この村の連中の命を繋ぐために使う)

 見返りを求めない、純然たる『救済』への祈り。

 優太は、貯まったポイントの半分以上、30,000Pを一気に消費して、特定のカテゴリ――『医療インフラ』の極大ガチャを回した。

『消費ポイント:30,000P。……運命力補正:【測定不能オーバーフロー】』

『排出を確定します』

 ズゴォォォォォォォォォォンッ!!!

 突如、優太たちがいるCCPのすぐ横、空き地となっていた広場に、凄まじい地響きと共に『それ』は出現した。

「な、なんだっ!?」

「敵の増援ですか!?」

 疲れ果てて休んでいたマンミアやフェイトが飛び起き、ネギオがネギカリバーを構える。

 だが、土煙が晴れた後に現れたのは、巨大な四角い『箱』だった。

 全長約12メートル。白く塗装された頑強な金属製の外壁に、赤十字のマークが刻印されている。

 地球の軍隊や災害派遣で使用される――『展開式・医療用コンテナハウス』だ。

『排出(UR):展開式・医療用コンテナハウス(自家発電システム・滅菌室・手術台・空調完備)』

『排出(SR):広域抗生剤&鎮痛剤セット(半年分)』

『排出(SR):点滴・輸液パック大量セット』

「……最高だ。これで、俺の『病院』ができた」

 優太は満足げに呟き、コンテナハウスの頑丈なドアに手をかけた。

 カチャッ、という音と共にドアが開くと、内部のセンサーが反応し、パァァッ!と明るいLEDライトが一斉に点灯した。

 エアコンから快適な冷気が吹き出し、消毒液の清潔な匂いが漂う。内部には最新式の手術台、無影灯、バイタルモニター、そして壁一面に収納された大量の医薬品と点滴パックが整然と並んでいた。

「な、ななな……なんですか、このお城は!?」

 中を覗き込んだキャルルが、腰を抜かさんばかりに驚愕の声を上げた。

「これが優太殿の……魔法……!? 中が光っています! それに、この涼しい風は一体……!」

 マンミアも、無影灯のまばゆい光に目を白黒させている。

「おいおい……魔法のポーチから兵器を出すドワーフの技術は知ってるが、まるごと『建物』を出しやがったのかよ。お前、本当にただの医者か?」

 ネギオすらも、咥えていた葉巻をポロリと落として絶句していた。

 優太はコンテナハウスの中に入り、手術台の傍らに立って皆を振り返った。

「地球の軍事医療の結晶だ。滅菌された空間で手術ができ、自家発電で24時間電力が保つ。これとキャルルの魔法があれば……この村の生存率は、飛躍的に跳ね上がる」

 優太はコンテナの壁をコンコンと叩き、頼もしい笑みを浮かべた。

「これからは、ここが俺たちの拠点だ。……文句はないな?」

「文句なんて、あるわけありませんっ!」

 真っ先に飛び込んできたのは、キャルルだった。彼女は優太の胸にダイブすると、その厚い胸板に頬を擦り付けた。

「優太さん、すごいです、すごすぎます! 私、優太さんの専属ナースになります! 24時間、優太さんのお手伝いをします! だから、ずっとずっと、私をそばに置いてくださいねっ♡」

「おいおい、くっつくなって。血がつくぞ」

 優太が苦笑いしながらキャルルを引き剥がそうとするが、月兎族の力でガッチリと抱きついたヤンデレ村長は、絶対に離れようとはしなかった。

「……はぁ、私もあのように素直に抱きつけたら……。いえ、私は騎士。お婿様の背中を護るのが仕事ですわ」

 入り口でモジモジしているマンミア。

「すっげぇ……この部屋、俺のミスリルアーマーより高そうだな。ここで寝泊まりしてぇ……」

 場違いな感想を漏らすフェイト。

 朝焼けの光が、ポポロ村の境界を優しく照らし始めた。

 死蟲機の残骸と、一晩の激闘の痕跡は残っているが、村人千人の命は確かに守り抜かれた。

 優太はキャルルをなんとか引き剥がし、コンテナハウスの入り口に立って、シークレットホルスターから最後のアメスピを取り出した。

 シュボッ。

 軍用マッチで火を点け、新鮮な朝の空気と共に、紫煙を深く肺に吸い込む。

(村の防衛、患者の治療、そして医療拠点の確保……。第一段階のミッションとしては、上出来だな)

 煙を空に向かって吐き出しながら、優太は戦う医官としての確かな充実感を感じていた。

 だが、この規格外の防衛戦と、突如出現した謎のコンテナハウスの噂が、ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国の上層部に届かないはずがない。

 三国を揺るがす戦術医官の伝説は、まだ始まったばかりであった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

戦闘後のトリアージと野戦治療、そして貯まったポイントによる『極大ガチャ』で医療用コンテナハウスを召喚する回でした。

単なる戦闘無双だけでなく、メディックとしての本領発揮と、拠点が出来上がっていく過程を楽しんでいただけたら嬉しいです。

「コンテナハウス召喚は熱い!」「専属ナースを志願するヤンデレ村長」「優太のプロ意識カッコいい」

と少しでも思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマーク】と、【星(評価)】を『★★★★★』でポチッと押して応援していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!

次回は、数日後の満月の夜のお話。

月兎族のキャルルが『ご熱い指導』で暴走!? 甘々でカオスなラブコメ回です。

引き続きよろしくお願いいたします!

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