迫り来る影と、戦術医官の事前準備(セットアップ)
迫り来る影と、戦術医官の事前準備
ポポロ村の北側境界。普段は太陽芋の畑が広がるのどかな場所だが、今は重苦しい緊張感に包まれていた。
「無理無理無理無理ィィィッ! 五百!? 死蟲機が五百匹!? そんなのA級冒険者一人でどうにかなる数じゃねぇって! 俺、やっぱり親友の従兄弟の犬の葬式に――」
「ええい、黙りなさいフェイト! ここで逃げたらポポロ村の千人の命が失われるのですよ! それでも男ですか貴様は!」
完全に腰が引けて逃げ出そうとするフェイトの首根っこを、マンミアが怪力で掴んで引き留めていた。フェイトの全身を包むミスリルアーマーが、ガシャンガシャンと情けない音を立てる。
そこへ、タクティカルリュックを背負った優太と、特注の安全靴を履いたキャルル、そして葉巻を咥えたネギオが到着した。
「村人の地下シェルターへの避難は完了した。自警団も定位置に就かせたぞ」
「ご苦労、マンミア」
優太は短く労うと、防衛線に設置された魔導センサーのモニターを覗き込んだ。
画面には、真っ赤な光点が無数に点滅しながら、こちらへ向かって一直線に進軍してくる様子が映し出されている。
「敵の構成は?」
「大半は歩兵である『死蟻機』です。ですが上空には毒針を飛ばす『死蜂機』が数十、そして群れの中央には……複数の死蟲機が合体した指揮官クラス、『死蟲将軍機』の巨大な反応があります」
マンミアの報告に、ネギオが忌々しそうに舌打ちした。
「チッ、はぐれの群れじゃねぇな。ジェネラルが混じってるってことは、天魔窟にいる『魔人ギアン』か、三国の過激派が意図的にこの村へけしかけたってことだ」
「理由はどうあれ、迎撃するしかない」
優太は冷静にモニターから目を離し、目の前に広がる畑と森の地形を確認した。
「いいか、全員よく聞け。敵は五百、こちらは自警団を合わせても数十人だ。正面からぶつかれば一瞬ですり潰される。だから……俺たちは『正面からは戦わない』」
「え?」
「村の入り口、つまりこの防衛線の『中央』をわざと開け放つ。敵は隙を突いてそこから一気になだれ込んでこようとするはずだ。だが、その両サイドに自警団と魔導地雷をV字型に配置しておく」
優太は地面に木の枝でVの字を描いた。
「いわゆる『キルゾーン(十字砲火地帯)』だ。敵を狭い場所に誘い込み、左右から火力を集中させて殲滅する。マンミア、あんたは遊撃部隊だ。鎖を使ってキルゾーンから漏れた敵を分断し、陣形を維持しろ」
「承知いたしました。私の命に代えても、陣形は崩させません」
「ネギオ、あんたは少し下がった位置から、魔導対空砲の指揮と、ネギカリバーによる遠距離支援を頼む」
「フン、人使いの荒い医者だ。だが、悪くねぇ布陣だ」
そして、優太は真っ青な顔をしているフェイトの肩を、ポンと叩いた。
「フェイト。お前はこの作戦の『要』だ」
「へ? お、俺が?」
「そうだ。敵のジェネラルをキルゾーンのど真ん中に誘い込むためには、最も目立ち、最も強力なオーラを放つ『最強の囮』が必要なんだ。お前のその輝くミスリルアーマーとA級の闘気……適任はお前しかいない」
優太の真剣な眼差しと、「最強」という言葉。
フェイトの単純な脳内に、ヒロイックなBGMが流れ始めた。
「そ、そうか……俺が要……最強の俺が、村を救う囮に……!」
「そうだ。頼んだぞ、エース」
「任せとけェェェッ! 俺のコイントスで、運命の女神も振り向かせてやるぜ!!」
完全に優太の口車に乗せられ、やる気満々で最前線へと駆けていくフェイト。
その背中を見送りながら、マンミアが呆れたようにため息をついた。
「……見事な悪知恵ですね、優太殿。彼、完全に自分が主役だと思い込んでいますよ」
「士気は高いに越したことはないからな。万が一コイントスで裏を出して寝込んでも、ミスリル装備なら少しは敵の足止めになるだろう」
「鬼ですかあなたは」
優太は口元を少し緩めると、最後に自分の役割を確認する。
「俺とキャルルは、キルゾーンの後方……地下シェルターの入り口付近に『CCP(負傷者集合拠点)』を構築する。撃たれた奴はすぐにそこへ運べ。俺が縫って、キャルルが魔法で塞ぐ。息さえあれば、絶対に前線へ送り返してやる」
優太はそう宣言すると、周囲に他の者がいないことを確認し、再びシステムウィンドウを呼び出した。
(戦術は組んだ。だが、五百を相手にするには『面』を制圧する物理火力が足りない。……頼むぞ、善行ガチャ。自分のためじゃない、この村の千人を守るための投資だ)
優太は、マンミアを助けた際の手持ちのポイントを惜しげもなく全額つぎ込み、3000Pを一気に消費した。
見返りを求めない、命を守るための純粋な祈り。
システムはそれを『極大の善行・防衛行動』と判定し、まばゆい光と共に、優太の足元に重厚なオリーブドラブ色の金属箱を三つ出現させた。
『排出(SSR):M18A1 クレイモア地雷(指向性対人地雷)×12基・起爆装置セット』
『排出(SR):パラコード&チタン製有刺鉄線ロール』
『排出(SR):タクティカル・レーザーポインター&ナイトビジョン(暗視装置)』
(……完璧だ。これ以上ない引きだ)
優太の顔に、冷酷な戦術家の笑みが浮かんだ。
『M18A1 クレイモア』。地球の軍隊で使用される、極悪非道な指向性地雷である。爆発と同時に、内部に詰め込まれた約七百発の鉄球を扇状にパチンコ玉の如くぶちまける、対歩兵用・面制圧兵器の最高峰だ。
優太はすぐさまキルゾーンの最深部、敵が密集するであろうポイントにクレイモアを扇状に配置し、起爆用のワイヤーをCCPの陣地へと引き込んだ。
さらに、有刺鉄線を張り巡らせ、敵の進軍ルートを意図的に狭めていく。
「優太さん、それは……魔導具ですか?」
キャルルが不思議そうに、クレイモアの緑色の箱を指差した。
「いや、ただの火薬と鉄球の塊さ。だが……密集した虫けらどもをミンチにするには、最高の相棒だ」
「ミンチ……♡」
優太の口から飛び出した物騒な単語に、なぜかキャルルは頬を染めて嬉しそうに身をよじった。
「優太さんが作ったミンチなら、きっとカレーに入れても美味しいですねっ!」
「……お前、たまにマジで怖いこと言うよな」
「えへへ、優太さんのためなら、私なんでもできちゃいますから!」
キャルルはそう言って、特注の安全靴のつま先をトントンと地面に打ち付けた。
彼女の長い耳が、優太の胸の音を拾い上げる。
トクン……トクン……。
目前に五百の化け物が迫っているというのに、優太の心音は、まるで穏やかな波のように一定のリズムを刻んでいた。
恐れがないわけではない。ただ、彼の中にある『命を救う』という使命感が、恐怖を完全にねじ伏せているのだ。
(なんて強い心音……。ああ、優太さん。あなたはやっぱり、私が命を懸けて護るべき人です)
キャルルの瞳の奥で、ヤンデレ特有のねっとりとした執着の炎が、さらに一段階温度を上げた。
「――来るぞ」
優太が低く呟いた。
地響き。木々がなぎ倒される音。そして、無数の酸っぱい異臭。
森の暗闇の奥から、赤い複眼を光らせた死蟲機の群れが、怒涛の勢いで姿を現した。
その光景は、まさに黒い津波だった。
だが、優太は慌てることなく、シークレットホルスターからアメスピを一本取り出し、唇に咥えた。
カチッ、と軍用マッチで火を点け、青白い煙を深く肺に吸い込む。
「全員、位置につけ。――害虫駆除の時間だ」
紫煙と共に吐き出されたその声が、ポポロ村防衛戦の開幕の合図となった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
優太の指揮官としての『悪知恵』と、善行ガチャによる最強の陣地構築回でした。
クレイモア地雷という、ファンタジー世界にはオーバースペックすぎる現代の極悪兵器を召喚し、完全にキルゾーンを完成させた優太。そして、彼の心音に惚れ込み続けるキャルル村長。
「クレイモアはエグいw」「フェイトの扱いが酷すぎるww」「キャルルがだんだんヤバくなってきた」
と少しでも楽しんでいただけましたら、
ぜひページ下部にある【ブックマーク】と、【星(評価)】を『★★★★★』でポチッと押して応援していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!
次回、ついに開戦!
泥臭くも計算され尽くした、優太のチーム戦術が火を噴きます!
引き続きよろしくお願いいたします!




