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極貧アイドルと、ポンコツ自警団の資金繰り

極貧アイドルと、ポンコツ自警団の資金繰り

 ポポロ村の防衛拠点として鎮座する、真っ白な医療用コンテナハウス。

 その快適な空調が効いたミーティングスペースで、優太は腕を組み、深刻な顔でホワイトボードの前に立っていた。

「いいか、現状を整理するぞ」

 優太はマーカーを手に取り、ホワイトボードに大きく数字を書き込んだ。

 『燃料代(魔導ガソリン代用):月額 金貨50枚』

 『自警団防衛費(弾薬・修繕費):マイナス金貨20枚(フェイトの借金)』

 『当座の食費・生活費:金貨数枚』

「このコンテナハウスを維持し、村の防衛を続けるためには、圧倒的に『金』が足りない。俺の善行ポイントを燃料や金策に回せば、いざという時の医療物資が出せなくなる。つまり、このアナステシア世界の通貨で、安定した資金源を確保する必要があるんだ」

 優太の切実なプレゼンに対し、ミーティングスペースの椅子に座る面々は、それぞれの反応を見せた。

「ゆ、優太さんっ! 私に任せてください!」

 真っ先に勢いよく手を挙げたのは、ヤンデレ村長のキャルルだった。彼女は特注の安全靴を鳴らして立ち上がり、誇らしげに胸を張る。

「私の実家……エルフの国『世界樹の森』から、毎月『純金100キロ』がお小遣いとして送られてきているんです! 今は村長宅の地下に塩漬けにしてありますから、それを全部優太さんに差し上げますっ♡ 私のものは、全部優太さんのものですから!」

「却下だ」

 優太は即答し、マジックペンでキャルルの案にバツ印をつけた。

「ええっ!? ど、どうしてですか!?」

「純金100キロをいきなりこんな小さな村の市場に流してみろ。通貨の供給量が爆発的に増え、貨幣価値が暴落する。いわゆる『ハイパーインフレ』だ。パン一個買うのに金貨数十枚が必要な世界になるぞ。村の経済をぶっ壊す気か」

 経済学の基本である。かつて地球の歴史でも、莫大な金を市場に放出した王が周辺諸国の経済を崩壊させた例がある。優太は軍医であると同時に、深い教養(深層:銃・病原菌・鉄)を持つ大人の男だ。目先の金で村の経済を破壊するような愚行はしない。

「うぅ……優太さんのために、世界の一つや二つ壊れてもいいと思ったのに……」

「ダメに決まってるだろ。それに、お前の大事な資産を俺の都合で食いつぶすわけにはいかない」

 優太が静かに窘めると、キャルルは「優太さん……私の資産まで大事に……はふぅっ♡」と、あっさり限界化して椅子にへたり込んだ。

「ならば、私の出番ですわね!」

 次に立ち上がったのは、生真面目な女騎士・マンミアだ。

「私は自警団のリーダーとして、この身を粉にして働きます! もし資金が足りないというのなら、私のこの武具を質に入れ、さらには夜の街道で警備のアルバイトを……っ!」

「それも却下だ」

 優太は再びバツ印を書いた。

「マンミア。お前は村の防衛の要(前衛)だ。前衛が武器や防具を売ってどうする。それに、夜通しバイトをして過労で倒れられたら、それこそ本末転倒だ。……お前はちゃんと休んで、いざという時に俺の前に立ってくれればそれでいい」

「あ……うぅ……っ!」

 『俺の前に立ってくれればそれでいい』という言葉の破壊力に、マンミアは顔を耳の先まで真っ赤にして両手で覆った。

(優太殿に、頼りにされている……っ! 私の背中ではなく、前に立つことを望まれているなんて……ああ、もうお婿様にするしかありませんわっ!)

 一人で勝手に乙女の妄想を加速させ、マンミアも戦線離脱した。

 そして、部屋の隅で雑巾を片手に正座させられている男――フェイトが、おずおずと手を挙げた。

「あの、優太殿……俺の【コイントス】がもし『縁で立てば』、運気が100倍になって、空から金貨が降ってくるかもしれないんすけど……」

「お前はまず、パチンコで溶かした自警団の防衛費を便所掃除で返し終えてから口を開け」

「ハイッ! 便器ピカピカにしてきます!」

 優太の絶対零度の視線に射抜かれ、フェイトは一瞬で脱兎のごとくトイレへと消えていった。

「……はぁ。見事にポンコツしかいないな」

 優太が額を押さえて深いため息をついた、その時だった。

「フッフッフ……皆様、お困りのようですわね!」

 自信満々な高笑いと共に、机の上にバァン!と両手をついて身を乗り出してきたのは、タローマンの安物芋ジャージに身を包んだ極貧アイドル・リーザだ。

「リーザ。お前、何かいい金策のアイデアでもあるのか? どうせタダ飯を食う算段だろう」

「失礼な! 私めを誰だとお思いですか? シーラン国の誇る絶対無敵のスパチャアイドルですわよ!」

 リーザは胸を張り、健康サンダルを鳴らした。

「資金がないなら、集めればいいのです! 私がこのポポロ村の広場で『ゲリラストリートライブ』を開催し、村人たちから熱狂的なスパチャ(お布施)を巻き上げ……ゲフンゲフン、愛と夢を提供してご支援をいただきますわ! 目標額、金貨100枚!」

「……ストリートライブねぇ」

 優太は腕を組んだ。

 確かに、リーザには『Love & Money』という、味方に強力なバフや奇跡を起こす本気の歌の力がある。もし彼女の歌が村人たちの心を打ち、正当な対価として支援が集まるなら、それは立派なエンターテインメント・ビジネスだ。

「分かった。お前の言う『アイドル』の力、見せてもらおうか。……ただし、無理強いはするなよ」

「お任せくださいませ! 優太様のために、このリーザ、骨の髄まで村人たちから絞り取って……じゃなくて、愛を振りまいてまいりますわ!」

 不穏な言い間違いを残し、リーザは意気揚々と外へ飛び出していった。

 ***

 一時間後。ポポロ村の中央広場。

 村人たちが農作業の合間に集まるその場所に、即席のステージとして『みかん箱』が一つ置かれていた。

 その上に立つのは、安物の芋ジャージを着たリーザである。手には、どこから拾ってきたのか、メガホンのような魔導拡声器が握られている。

 そして彼女の足元には、謎の『箱』が置かれていた。

 一見するとお賽銭箱のようだが、よく見ると先端に吸い込み口がついており、何やら掃除機のようなフォルムをしている。彼女のユニークスキル【貧乏神】の力を応用した、対象の財産を強制没収する『お賽銭箱型掃除機』だ(※ただし回収した金はリーザの懐には入らず消滅するため、今回はただの脅し用ハッタリ小道具として置かれている)。

「あー、あー、マイクテス、マイクテス! ポポロ村の皆様、ごきげんよう!」

 リーザの声が広場に響き渡ると、珍しがった村人たちがパラパラと集まってきた。

 遠くの木陰では、優太とキャルルが腕を組んでその様子を見守っている。

「おお? シーラン国から来たって噂のお姫様かい?」

「歌を歌ってくれるのかね? 農作業の疲れが癒やされるってもんだ」

 好意的な村人たちの反応に、リーザはニヤリと強欲な笑みを浮かべた。

「ええ、そうですわ! 皆様の魂を震わせる、極上のステージをお届けいたします! ……ですがぁ!」

 リーザはビシッと村人たちを指差した。

「アイドルの歌はタダではございません! まずはそこのお賽銭箱に、お一人様につき『銅貨5枚(約500円)』……いや、できれば『銀貨1枚(約1000円)』を投入していただきますわ! さあさあ、お金を入れないと、私の美声は一ミリも聞かせませんことよ!」

 堂々たる、事前集金(前払い)の要求であった。

 集まっていた村人たちの顔から、スッと笑顔が消えた。

「え……お金払うの? まだ一曲も聞いてないのに?」

「銅貨5枚って、ランチ一回分だぞ。俺たちただの農民だぜ?」

「なんだよ、タダじゃないなら帰るべ。大根の収穫が忙しいんだ」

 ゾロゾロと、波が引くように村人たちが背を向けて歩き出し始めた。

 リーザは慌てて拡声器を握り直す。

「あ、あれっ!? ち、ちょっと待ってくださいませ! 私の歌を聞けば絶対に後悔しませんわ! 五円! せめて五円玉(同粒5枚)で結構ですから! なんならパンの耳でもいいですのぉぉっ!」

 リーザが悲痛な声で叫ぶが、一度冷めた客足は戻らない。

 結局、彼女の足元のお賽銭箱には、誰かが落としていった『ドングリが一つ』入っているだけだった。

「うぅ……どうしてですの……。私のファンたちは、息をするようにスパチャを投げてくれましたのに……」

 みかん箱の上で膝を抱え、シクシクと泣き始める極貧アイドル。

 その悲惨な光景を木陰から見ていた優太は、深く、深くため息をついた。

「……ビジネスってのはな、まずは相手に『価値』を提供して、その対価として金をもらうもんだ。価値を見せる前に金を要求する奴は、ただの強盗と変わらん」

「優太さんの言う通りですね。リーザちゃん、強欲が前に出すぎてて引かれてました」

 キャルルも呆れたように首を振っている。

「まぁ、分かっていたことだ。俺たちの身内(手札)だけで、莫大な維持費を稼ぐのは現実的じゃない」

 優太はシークレットホルスターからアメスピを取り出し、火を点けた。

 紫煙を吐き出しながら、彼は村の広場の向こう、大きな街道が続く方角へと思考を巡らせる。

「やはり、巨大な『パトロン(金ヅル)』を見つけるしかない。それも、ただの商人じゃない。この村の特産品と、俺の兵器の『価値』を正確に測れて、なおかつ莫大な資金力を持った奴だ」

 戦う医官の眼光が、冷徹なビジネスマンのそれに切り替わる。

 ポポロ村の経済基盤を確立し、コンテナハウスの燃料を確保するため。

 優太の『悪知恵』は、すでに大陸屈指の大企業――『ゴルド商会』のトップへと狙いを定めていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

資金難に直面するポンコツ自警団と、リーザのポンコツストリートライブ回でした。

価値を提供する前に集金しようとして大失敗するリーザ……彼女らしい強欲さですが、ビジネスの基本は優太の言う通りですね(笑)。

「リーザ安定のポンコツw」「優太のツッコミが冴え渡る」「金策大変だな……」

と少しでも楽しんでいただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマーク】と、【星(評価)】を『★★★★★』でポチッと押して応援していただけると、執筆の最高のモチベーションになります!

次回は、村の噂を聞きつけて、ついにあの『大企業の会長』がポポロ村にやってきます。

リーザの【貧乏神】スキルが思わぬ形で火を噴く!? お楽しみに!

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