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コンテナハウスの弱点と、戦術医官の『資金繰り』

コンテナハウスの弱点と、戦術医官の『資金繰り』

 ポポロ村の境界、巨大な白い医療用コンテナハウスの裏手。

 優太は、コンテナに直結された無骨なディーゼル発電機のメーターを睨みつけ、深いタメ息をついていた。

「……また減ってる。このペースだと、あと三日でタンクが空になるぞ」

 発電機の燃料ゲージは、すでに『エンプティ』の赤いラインを舐めようとしていた。

 このコンテナハウスは、地球の軍事医療の粋を集めた最高峰の施設だ。無菌室、最新の空調、24時間稼働のバイタルモニター、そして手術用無影灯。これらがあれば、この異世界の戦場において、死にかけの患者でも9割以上の確率で前線へ復帰させることができる。

 しかし、その完璧な医療インフラには、たった一つだけ致命的な『弱点』が存在した。

「ランニングコスト(維持費)が、バカにならねぇ」

 優太はシークレットホルスターからアメスピを取り出し、軍用マッチで火を点けた。紫煙を空に吐き出しながら、システムウィンドウを呼び出す。

 優太のユニークスキル【地球ショッピング】(通称・善行ガチャ)は、打算なき善行によって貯まったポイントで地球の物資を呼び出せる。

 先日、五百の死蟲機から村を救ったことで数万のポイントを獲得したが、コンテナハウスの召喚でその大半を消費した。現在の残高は数千ポイント。

 もちろん、善行ガチャで『軽油(ディーゼル燃料)』を呼び出すことは可能だ。だが、燃料というものは『消費』される。日々目減りしていくポイントを燃料代だけで食いつぶしていけば、いざ致命傷を負った患者が運ばれてきた時、肝心の『医療器具』や『特効薬』を出すポイントが足りなくなる。

(チート能力に完全依存するのは、戦術的に下策だ。……この世界のアセット(資源)を上手く使って、コンテナを回す方法を考えないとな)

 優太が頭を悩ませていると、コンテナハウスの中からキャルルが小走りで出てきた。

 彼女は優太が地球ショッピングで呼び出した『ナース服(なぜかちょっとタイトなミニスカート仕様)』を着込んでおり、ご機嫌で兎耳を揺らしている。

「ゆぅ~たぁ~さぁ~んっ♡ コンテナ内の清掃と、医療器具の滅菌、完璧に終わらせておきましたよっ! 私、優太さんの専属ナースとして、いつでも完璧なサポートをお約束します!」

「ああ、助かるよキャルル。お前が手伝ってくれるおかげで、俺も別の作業に集中できる」

 優太が頭をポンポンと撫でてやると、キャルルは「ふにゃぁぁっ♡」と顔を真っ赤にしてとろけそうになった。

 だが、すぐに真面目な顔に戻り(ヤンデレのオンオフが早いのは村長としての矜持だろうか)、優太が見つめていた発電機に視線を移した。

「優太さん、どうかしたんですか? そんな怖い顔をして」

「……このコンテナを動かすための『血(燃料)』が足りなくなりそうなんだよ。地球の機械だから、この世界の魔力じゃ動かせない」

 優太の説明に、キャルルは首を傾げた。

「燃料……ですか? ルナミス帝国で使われている『魔導ガソリン』みたいなものでしょうか?」

「ああ。ポポロ村の地下には、ドンガン地下帝国の密輸ルートがあるって言ってたな。そこで大量の魔導ガソリン、あるいはそれに代わる燃料を調達できないか?」

「調達自体は可能だと思います。ドンガンの商人たちは、お金さえ払えば何でも売ってくれますから。……ただ」

 キャルルは少し困ったように眉を下げた。

「あの商人たちは、足元を見るのが得意なんです。特に、私たちが先日『未知の兵器で魔獣を全滅させた』という噂が広まっているので、警戒して法外な値段を吹っ掛けてくるかもしれません」

「法外な値段、か」

 優太はタバコを携帯灰皿でもみ消し、腕を組んだ。

「ちなみに、このコンテナを一ヶ月動かすだけの燃料を買うとしたら、金貨(一万円相当)でどのくらい必要になりそうなんだ?」

「ええと……ドンガンの相場だと、おそらく金貨五十枚(約五十万円)は下らないかと。それに、これからは冬に向けて医療用の魔導ストーブの燃料も必要になりますし……」

 金貨五十枚。

 優太の現在の『ポケットマネー』は、昨夜のルナキンでの親睦会でかなり使ってしまったため、残りは金貨数枚程度だ。圧倒的に足りない。

(俺のポイントは医療物資の召喚に温存したい。となると、この世界で金策ビジネスをするしかないか……)

 優太が『資金繰り』という、戦う医官には似つかわしくない問題に直面していると、遠くからドスドスという激しい足音が聞こえてきた。

「ゆ、優太殿ぉぉぉっ! 大変ですわ!」

 現れたのは、自警団リーダーのマンミアだ。

 彼女はケンタウロスの馬身を汗だくにしながら、何か重いものを引きずるようにして駆け寄ってきた。

 その後ろには、全身を縛り上げられ、青ざめた顔で「助けてくれぇ……」と泣き言を漏らすフェイトの姿があった。

「マンミア。フェイトがまたコイントスでやらかしたのか?」

「いえ、もっと最悪です! このバカ、昨夜ルナミスパーラー(パチンコ屋)に入り浸りまして……なんと、自警団の活動資金の一部まで『CR異世界転生トラックでドン!』に突っ込んでスッカラカンにしてしまったのです!」

「なっ……!?」

 キャルルの兎耳が、怒りでピーンと直立した。

「ふぇ、フェイトさん……? 村の防衛費を、パチンコに……? あなた、自分の顎の骨が何個の破片になるか、計算したことありますか?」

「ひぃぃぃぃっ! ち、違うんだキャルル村長! 昨日は俺の【コイントス】の運気が最高だったから、確変(異世界転生ラッシュ)に入れば防衛費が十倍になるって計算で――」

「だまれこのクズ冒険者がァァァッ!」

 マンミアのパイルバンカーがフェイトの頭すれすれを掠め、フェイトは「ヒィンッ」と悲鳴を上げて首をすくめた。

 優太は深く、深くため息をついた。

 コンテナの維持費どころか、村の防衛資金までマイナスに叩き落とされたのだ。

「……フェイト。お前、ルナキンで俺が『命懸けで村を守った労いだ』って言ったのを忘れたのか?」

「ゆ、優太殿……すんません……でも、ガオガオンのカットインが出たから激アツだと……」

「言い訳はいい。お前は今日から一ヶ月、村の便所掃除と、俺の『善行ポイント』稼ぎのためのどぶさらいの刑だ」

「ギャアアアアッ! 俺のミスリルアーマーがウンコまみれにィィィ!」

 絶叫するフェイトをマンミアに引きずって行かせ、優太は再び腕を組んだ。

 事態は深刻だ。

 このままでは、発電機が止まるだけでなく、村の自警団の武器の修繕すらできなくなる。

(……だが、待てよ)

 優太の脳裏に、かつてネギオから聞いた『ポポロ村の特産品』の話がフラッシュバックした。

「キャルル。この村の特産品……『ポポロ・シガー』と『サンライス』。あれは三国で高く売れるんだよな?」

「はい。ポポロ・シガーは特に、ルナミスやアバロンの貴族たちから金貨一枚以上で取引されるほどの超高級品です。でも……」

 キャルルは少し暗い顔になった。

「村の規模が小さくて、大量生産ができないんです。それに、販路を広げようとすると、三国の悪徳商人たちに買い叩かれたり、輸送中に野盗に狙われたりして……。結局、細々と売るしかない状態なんです」

 優太はニヤリと口角を釣り上げた。

販路ルート護衛セキュリティの問題か。……なら、話は早い。その『サンライス』と『ポポロ・シガー』を、最も高値で買ってくれる巨大な『パトロン』を見つけて、独占契約を結べばいい」

「えっ? 巨大なパトロン……?」

「ああ。俺たちには、五百の死蟲機を無傷で全滅させた『防衛力』という最高のブランドがある。それを盾にして、大陸屈指の大企業に交渉を持ちかけるんだ」

 優太の頭の中には、すでに一つのターゲットが浮かんでいた。

 大陸全土にルナミスキング(ファミレス)やタローマン(ホームセンター)を展開し、食料から兵器まであらゆる流通を牛耳る巨大企業――『ゴルド商会』。

 その会長である『オロチ』という蛇目族の男は、金のためならどんな危険な橋も渡る、成金の塊だという噂をネギオから聞いていた。

(相手が強欲な商人なら、力ずくではなく『利益ビジネス』で絡め取る。……俺のコンテナハウスの燃料代、たっぷりと払ってもらうとしようか)

 優太がシークレットホルスターのナイフの柄を無意識に撫でながら、悪代官のような笑みを浮かべていると、背後からひょっこりとリーザが顔を出した。

「優太様ぁ♡ なんだかお金の匂いがしますわ! 私めも、その『パトロン探し』とやら、一口噛ませてくださいませ!」

「お前はまたタダ飯を食う気満々だな。……まあいい。お前のその『強欲さ』が、交渉の役に立つかもしれないからな」

 優太はリーザの頭を軽く小突き、キャルルに向き直った。

「キャルル。村の在庫にある最高級のポポロ・シガーを数箱用意してくれ。……これから、少し『営業』に出かけるぞ」

「はいっ! 優太さんのためなら、村の備蓄全部差し出しますっ!」

 こうして、戦う医官・優太の『コンテナ維持費調達(資金繰り)ミッション』が、静かに、そしてドロドロとした思惑と共に幕を開けたのだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

第二章の第2話、医療用コンテナハウスの『燃料ランニングコスト』という、チートの弱点が発覚する回でした。

なんでもかんでもポイントで出せるわけではなく、「この世界の経済」を回す必要が出てきた優太。そして、防衛費をパチンコで溶かすフェイト(笑)。

「チートの制約あるのいいね!」「フェイト安定のクズっぷりw」「優太の悪代官スマイル最高!」

と少しでも楽しんでいただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマーク】と、【星(評価)】を『★★★★★』でポチッと押して応援していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!

次回、ついに大企業『ゴルド商会』の会長・オロチが登場!

優太の知略と、リーザの極悪スキル【貧乏神】が火を噴く、痛快な「交渉ざまぁ」回が始まります。

引き続きよろしくお願いいたします!

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