第二章 戦う医官の休息と、ファミレス(ルナキン)の親睦会
戦う医官の休息と、深夜ファミレスの親睦会
煌々と輝くネオンサインが、深夜のポポロ村の街道を照らしていた。
『ルナミスキング・ポポロ支店』――通称『ルナキン』。
それは、およそ百年前にルナミス帝国を建国した異世界転生者・佐藤太郎が残した偉大なる遺産であり、アナステシア世界に点在する24時間営業のファミリーレストランである。
死蟲機五百匹との死闘、そしてその後の徹夜のトリアージと野戦治療を終えた翌日の深夜。
優太たち『チーム・ポポロ村防衛戦』の面々は、そのルナキンの広めのボックス席を陣取っていた。
「さあさあ優太さん! あーん、ですっ♡」
優太のすぐ右隣の席――というより、ほぼ優太の右腕に抱きつくような距離に密着しているキャルルが、フォークに刺したハンバーグを優太の口元へと差し出していた。
彼女の長い兎耳は嬉しそうにピコピコと揺れ、ヤンデレじみた愛情がメーターを振り切って完全なる『尽くす妻モード』へと移行している。
「キャルル。自分で食えるから。それに、お前自分の分はもう食い終わってるじゃないか」
「優太さんに食べさせてもらうのを見るのが、私の一番の栄養なんですから! さあ、遠慮せずにあーんっ!」
優太は苦笑しながら、差し出されたハンバーグを口に運んだ。
ロックバイソンの挽肉に、みじん切りにした『たまんネギ(エロ本を没収され賢者モードになった個体)』を練り込んだ、ルナキン自慢の『ハンバーグ・ルナミス風』だ。ソーリーフ(ソースの味がする葉)を煮詰めた濃厚なデミグラスソースが、ロックバイソンの野性味溢れる肉汁と絡み合い、極上の旨味となって口の中に広がる。
「……うん、美味い。異世界のファミレスも捨てたもんじゃないな」
「でしょでしょ!? あ、口元にソースがついてますよっ。私が舐めとって――」
「そ、そそそ、村長っ! 人前でなんて破廉恥なっ!」
向かいの席に座っていたマンミアが、顔を林檎のように真っ赤にして身を乗り出した。
彼女はケンタウロス種特有の大きな馬身をなんとかソファーの横に折りたたみ、テーブルに身を乗り出すようにして座っている。
「優太殿は皆の恩人であり、今は休息の時です! あまりベタベタとくっついては、優太殿のご迷惑になりますわ! ……それに、背中を流すどころか、あーんまで抜け駆けするなんて……」
後半はモゴモゴと小声になったマンミアだが、その視線は明らかに優太の『左隣』の空席をチラチラと気にしていた。
「おほほ。お堅い騎士様は不器用ですわねぇ。……すいませーん! 店員さん! 『ハンバーグ・ルナミス風』のトリプルサイズ、あと三つ追加で! それと『太陽芋の山盛りポテトフライ』と『特大苺パフェ』もお願いしますわぁぁっ!」
そんな恋愛の鞘当てなど全く意に介さず、限界突破した食欲を発揮しているのは、極貧アイドルのリーザだ。
彼女の前のテーブルには、すでに空になった皿がタワーのように積み上げられている。普段は『パンの耳』と『茹で卵』、そして『公園の雑草』しか食べていない彼女にとって、ルナキンのメニューはまさに神の領域だった。
「はぐっ、むぐっ……! パンの耳じゃないお肉……! 肉汁が、肉汁が噛まなくても溢れてきますのぉぉっ! 美味しい……美味しいですわぁぁっ!」
リーザは感動の涙と鼻水を垂らしながら、両手に持ったフォークで次々と料理を胃袋にブラックホールのように吸い込んでいる。
「おいおい、そんなに食って大丈夫かよ? お前、普段どんだけひもじい思いしてんだ……」
ドン引きしながらドリンクバーのメロンソーダを啜っているのは、A級冒険者のフェイトだ。
彼はいつものギラギラしたミスリルアーマーを脱ぎ、今日はラフなシャツ姿で席の端に座っていた。死蟲機との戦いでは『最高の囮(胃痙攣)』として活躍(?)した彼だが、今はすっかり体調も回復している。
「ふふん。今日は俺の【コイントス】の運気が最高潮に達してる気がするぜ! よし、ここで一発『表』を出して、俺も特大苺パフェを――」
「店内でコイントスは禁止だ、フェイト。また裏を出してゲロを吐かれたら、出入り禁止になるからな」
「うっ……優太殿の言うことなら仕方ねぇ……」
優太の静かなツッコミに、フェイトはシュンとしてコインをポケットにしまった。
優太はシークレットホルスターからアメスピを取り出そうとしたが、店内が禁煙であることを思い出し、代わりにポケットの『高カカオチョコ』を一つ口に放り込んだ。
苦味の強いカカオの香りが、戦場の硝煙と血の匂いを上書きしていく。
「お待たせいたしましたー! 追加のハンバーグトリプル三つと、ポテト、パフェでーす!」
ルナキンの制服を着た店員が、テーブルに乗り切らないほどの料理を運んできた。
「わぁぁぁいっ! いただきますわぁぁっ!」
リーザが狂喜乱舞してハンバーグに飛びつく。
「おいリーザ、お前それ全部一人で食う気か? 誰が払うんだよ、その莫大な会計」
フェイトが呆れたように突っ込むと、リーザの動きがピタリと止まった。
「……え? お、お支払いは……フェイトさんが、A級冒険者の財力でドカンと……」
「馬鹿言え。俺の給料は全部、ルナミスパーラーの『CR異世界転生トラックでドン!』に突っ込んですっからかんだぜ」
「なっ……じゃ、じゃあ、マンミアお姉さまが騎士団の貯金で……」
「私は質素倹約を旨としております。それに、武具の修繕費で手持ちの銀貨はギリギリですわ」
「キ、キャルルお姉さま……」
「私の年金(純金100キロ)を使ったら、この村の市場がハイパーインフレを起こして滅びるって言ったでしょ」
リーザの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
極貧アイドルである彼女の全財産は、磨き上げた『五円玉(地球の硬貨)』が数枚あるだけだ。
「お、終わりましたわ……。無銭飲食で、ルナキン裏の皿洗いを百年間させられますの……。アイドル生命が、パンの耳ごと……」
リーザが白目を剥いて椅子から崩れ落ちそうになった、その時。
テーブルの上に、チャリンッ、と鈍い音を立てて小袋が置かれた。
「安心しろ。今日の会計は、俺が全部持つ」
優太が口元に笑みを浮かべ、革袋の口を開けた。
中には、銀貨(約1000円相当)と金貨(約1万円相当)がたっぷりと詰まっている。
これは、優太がポポロ村の自警団と医療業務で契約している正式な給与の一部と、不要なドロップアイテムを商業ギルドで換金した『ポケットマネー』だ。
「ゆ、優太様ぁぁぁぁぁっ!?」
リーザが這いつくばって優太の足にすがりつく。
「神ですの! 優太様は絶対無敵のスパチャ大魔王様ですわぁぁっ!」
「おい、称号が変になってるぞ。……まあいい。命懸けで村を守った、お前らへの労いだ。好きなだけ食え」
「うおおおおっ! 優太殿、マジで一生ついていきますぜ!」
フェイトも大興奮でドリンクバーへと走っていく。
優太はコーヒー(ブラック)の入ったマグカップを持ち上げ、テーブルの面々を見回した。
ヤンデレ気味だが誰よりも村を愛する村長のキャルル。
生真面目で誇り高いが、恋には奥手な女騎士のマンミア。
極貧だがバイタリティの塊であるアイドルのリーザ。
そして、コイントス狂いのトラブルメーカー、フェイト。
たった数日前まではバラバラだった彼らが、今は一つのテーブルを囲み、同じ飯を食っている。
優太の指揮と医療技術、そして『地獄を綺麗にする』という覚悟が、彼らを一つの強力な『チーム』へとまとめ上げたのだ。
「……五百の死蟲機から、村の千人を守り抜いた。全員、よくやったな」
優太が静かに、だが確かな労いの言葉を口にする。
「俺の無茶な指示に従ってくれて感謝する。……乾杯しよう」
優太がマグカップを掲げると、キャルルは満面の笑みでオレンジジュースのグラスを。
マンミアは少し照れくさそうに陽薬草茶のカップを。
リーザはハンバーグを咥えたままメロンソーダのグラスを。
そして戻ってきたフェイトがコーラのグラスを、それぞれカチンッと鳴らした。
「「「「乾杯っ!!!」」」」
深夜のファミレスに、明るい笑い声が響き渡る。
戦場でのヒリヒリとした緊張感から解放された、至福の休息。
優太はコーヒーを啜りながら、幸せそうにパフェを頬張るキャルルたちの姿を見て、ふっと目を細めた。
(こういう日常を守るために、俺は戦ってるんだな)
だが、プロの軍人である優太の思考は、すでに『次なる課題』へと向かっていた。
(……とはいえ、問題がないわけじゃない)
優太は自分の『善行ポイント』の残高と、医療用コンテナハウスの稼働状況を脳内でシミュレートしていた。
コンテナハウスの無影灯や空調、滅菌機を動かすための自家発電機。その燃料である『軽油』の消費量が、予想以上に激しいのだ。
善行ポイントを使って軽油を召喚することは可能だが、それではせっかくのポイントがインフラ維持だけでゴリゴリと削られていき、いざという時の医療物資が呼べなくなる。
(地球のチートだけに頼り切るのは危険だ。このアナステシア世界で、独自に資金と燃料を調達する『経済基盤』を作らなきゃならないな……)
優太の静かな懸念を知る由もなく、リーザの「すいませーん! 追加でパンケーキ五人前ですわぁぁっ!」という元気な声が、再びルナキンに響き渡った。
戦う医官の休息は短く。
次なる『金とインフラ』の戦いが、すぐそこまで迫っていた。
第二章の開幕です!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
激闘を終えた後の、ルナミスキング(ファミレス)での親睦会&メシテロ回でした。
優太の大人の余裕と、仲間たちのワイワイとしたやり取り。こういう日常パートがあるからこそ、戦いが映えますね。
「ファミレス回和む」「リーザの食欲エグいw」「優太の財布が心配になるレベル」
と少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回、医療用コンテナハウスの思わぬ「弱点」が発覚!?
資金繰りに悩む優太たちに、新たな展開が訪れます。引き続きよろしくお願いいたします!




