休日の愛車メンテナンスと、鉄の馬への嫉妬
休日の愛車メンテナンスと、鉄の馬への嫉妬
抜けるような青空が広がるポポロ村の朝。
医療用コンテナハウスの横に設営された仮設ガレージで、優太はホースを片手に、水しぶきを上げながら『相棒』たちの汚れを落としていた。
「よし……泥は粗方落ちたな。死蟲機の体液は酸性だから、早めに洗い流しておかないと塗装がやられる」
優太の目の前に鎮座しているのは、二台の地球のビークルだ。
一台は、彼が異世界に飛ばされた時に乗っていた大型アドベンチャーバイク、『ホンダ・アフリカツイン(CRF1100L)』。
もう一台は、彼が善行ポイントを貯めに貯め、極大ガチャを回して密かに召喚していた『トヨタ・ランドクルーザー250』である。
どちらも、荒れ地や悪路をものともしない、男心をくすぐる無骨でタフな名機だ。
優太はカーシャンプーを泡立てたスポンジで、ランクルの角ばったボディと、アフリカツインの流線型のタンクを丁寧に磨き上げていく。
「ゆぅ~たぁ~さぁ~んっ! おはようございますっ♡」
そこへ、朝から絶好調の村長・キャルルがぴょんぴょんと長い耳を揺らしながら走ってきた。
後ろには、寝癖を少し残したマンミアと、すでにパンの耳を齧りながら歩いてくるリーザの姿もある。
「おはよう、キャルル。マンミアとリーザも」
「優太殿、朝から精が出ますね。それは……優太殿の『乗騎』ですか?」
マンミアが、アフリカツインとランクル250を不思議そうな、そして少しだけ『鋭い』眼差しで見つめた。
異世界にも馬やジオ・リザードなどの乗り物は存在するが、金属とゴムとガラスだけで構成された地球のビークルは、彼女たちにとって未知の物体だ。
「ああ、俺の愛車さ。こっちの二輪が『アフリカツイン』、四輪のデカいのが『ランクル』だ。どちらもどんな悪路でも走破できる、頼れる相棒だよ」
「あ・い・しゃ……」
その言葉に、ピクッと反応したのはキャルルだった。
彼女のヤンデレアンテナが、『愛』という単語を極めて敏感に拾い上げたのだ。
(愛車……優太さんが愛している車……。つまり、私というものがありながら、優太さんはこの鉄の塊に愛を注いでいる……? 許せません、こんな鉄屑、今すぐ私の安全靴でペシャンコに――)
キャルルが笑顔のまま、右足の特注安全靴にギリギリと闘気を込め始めたのを見て、優太は即座に危険を察知した。
「キャルル、ストップ。それはただの機械だ。生き物じゃない。嫉妬する対象じゃないぞ」
「はっ!? し、嫉妬なんてしてませんよぉ! ただ、少しだけスクラップにしようかなって思っただけで……」
「それを嫉妬って言うんだ。……ほら、手伝ってくれるか? お前のその機敏な動きでワックスを掛けてくれたら、助かるんだが」
優太が固形のカーワックスとマイクロファイバーのクロスを差し出すと、キャルルはパァァッと顔を輝かせた。
「優太さんのお手伝い! はいっ! 私、誰よりもピカピカにしてみせますっ! 優太さんの愛は私だけのものですからねっ♡」
キャルルはクロスを受け取るや否や、月兎族の常軌を逸した俊敏さでランクルのボディを磨き始めた。
キュキュキュキュキュッ!と、残像が見えるほどの速度でワックスがけが行われ、みるみるうちにランクルのボディが新車のように輝き出していく。
「すごいな……洗車専門店も裸足で逃げ出すスピードだ」
優太が感心して見ていると、今度はマンミアがツカツカとランクルの前に進み出てきた。
彼女は自分の豊かな胸の前で腕を組み、不満そうに口を尖らせている。
「優太殿。一つ、不満がありますわ」
「なんだ、マンミア?」
「この『ランクル』とやら。悪路を走破すると言いますが、私の脚力や持久力には勝てないはずです。それに、これに乗るということは……」
マンミアはチラリと優太を見上げ、顔を真っ赤にしてモジモジと蹄を鳴らした。
「わ、私がいるのに、なぜこんな鉄の馬などに乗るのですか! もし優太殿がどこかへ行きたいのなら、この私が、その……背中に乗せて差し上げますのに……っ!」
ケンタウロス族の誇りと、乙女の嫉妬が入り混じった大胆なアピール。
優太はホースの水を止め、くすりと笑ってマンミアの頭を軽く撫でた。
「嬉しい申し出だが、遠慮しておくよ。……お前の背中は、将来の『お婿さん』しか乗せないって決めてるんだろ? 俺が軽々しく乗ったら、お前の矜持に傷がつく」
「あ……うぅ……っ!」
その言葉に、マンミアの顔はついに耳の先まで茹でダコのように真っ赤に染まった。
(私のお婿様は優太殿しかいないのに! どうしてこのお方は、こうも鈍感で、そしてズルい大人なのでしょうか……っ!)
マンミアは両手で顔を覆い、「うわぁぁぁん」と言いながら自分の尻尾をバタバタと振ってしゃがみ込んでしまった。
「あはは! マンミアちゃん、顔が真っ赤ですわよ!」
呑気に笑いながらやってきたのはリーザだ。
彼女はバケツの周りに溜まったカーシャンプーの泡をすくってフーフーと吹き飛ばして遊んでいたが、ふと、優太が洗い流した後のバケツの水(少し泥が混じっている)をじーっと見つめた。
「……ねえ、優太様。このお水、優太様が精魂込めて『愛車』を洗った聖なるお水ですよね?」
「まあ、ただの汚水だな」
「これをペットボトルに詰めて、『優太様の滴る汗と愛情ブレンド・ポポロ村の聖水』としてタローマートの前に並べれば、熱狂的なファン(キャルルお姉さま)が高値で買い取るのでは……?」
「よし、リーザ。お前は今日、夕飯抜きだ」
「ごめんなさぁぁぁい! 冗談ですわ! パンの耳だけじゃなくカレーも食べたいですのぉぉっ!」
相変わらずの極貧アイドル(たくましすぎる錬金術師)の奇行に、優太は呆れながらも笑い声を上げた。
そこへ、のそのそと銀色の鎧を引きずりながらフェイトがやってきた。
「うぅ〜、優太殿〜……俺のミスリルアーマー、昨日の泥と虫の体液でベトベトなんだけど……その変な機械で洗ってくれよ〜」
フェイトが情けなく頼んでくるが、優太は冷酷な笑みを浮かべ、手に持ったホースの先端――高圧洗浄機のノズルをフェイトに向けた。
「自分の鎧は自分で洗うのが冒険者の基本だろ。……手伝ってやるよ。キャルル、水圧最大でいけ」
「はいっ! フェイトさん、覚悟してくださいねっ!」
キャルルがコンプレッサーのスイッチを入れた瞬間。
バシュゥゥゥゥゥゥッ!!!
凄まじい水圧のウォータージェットがフェイトのミスリルアーマーを直撃し、フェイトは「ギャアアアアッ!?」という悲鳴と共に、五メートルほど後方へ吹き飛ばされて泥水の中に転がった。
「よし、これで泥は落ちたな。あとは自分で磨け」
「鬼ぃぃぃ! 優太殿の鬼ぃぃぃっ!」
フェイトが泣き叫ぶ中、優太たちは大笑いしながら洗車を終えた。
太陽の光を浴びて、新品のようにピカピカに輝くアフリカツインとランドクルーザー250。
優太は腰に手を当て、心地よい疲労感と共に愛車を見上げた。
「……よし。完璧だ」
優太はシークレットホルスターからアメスピを取り出し、火を点けた。紫煙を空に吐き出しながら、ヒロインたちを振り返る。
「おい、お前ら」
「はいっ?」「なんでしょう?」「カレーですか!?」
「連日の戦いと、防衛拠点の構築で、みんな疲れてるはずだ。俺も、少しばかり肩が凝った」
優太はタバコを咥えたまま、口角を上げてニヤリと笑った。
「明日は村のことはネギオと自警団の別働隊に任せて……俺たちで、少し遠出しないか? この『ランクル』に乗って、隣町の露天風呂(温泉)にツーリングとしゃれ込もうぜ」
「――っ!!!」
優太の提案に、ヒロイン三人の動きがピタリと止まった。
ツーリング。温泉。それはつまり、優太との『お泊まり(または日帰り)慰安旅行』を意味している。
「お、温泉!? 優太さんと、温泉……っ♡(ということは、私が優太さんの背中を流すという一大イベントが……っ!)」
「ゆ、優太殿と、遠出!?(わ、私がついに、優太殿と鉄の馬の密室空間で……っ!)」
「温泉!?(ということは、お風呂上がりにフルーツ牛乳とか、豪華な旅館のタダ飯が食べ放題ですの!?)」
三者三様の欲望と期待が爆発し、ヒロインたちは手を取り合って歓喜の声を上げた。
泣きながらミスリルアーマーを拭いていたフェイトが「お、俺も行っていいか!?」と手を挙げたが、キャルルの「男風呂はフェイトさん一人で入ってくださいね」という冷酷な一言で瞬殺されていた。
地獄の泥水に浸かり、村を守り抜いた戦術医官。
彼が手に入れたのは、騒がしくも愛おしい、最高の『休日』の始まりだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
激闘の後のご褒美、愛車(アフリカツイン&ランクル250)の洗車と、ヒロインたちとのドタバタな休日回でした。
車に嫉妬するヤンデレ村長、お婿さんにしか背中を乗せないとアピールする女騎士、そして聖水を売ろうとするアイドル……優太の周りは本当に飽きませんね(笑)。
「車に嫉妬するキャルル可愛いw」「フェイトの扱いが通常運転で安心した」「温泉回キター!」
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次回、いよいよ第一章の完結編!
温泉ツーリングで裸の付き合いと、ヒロインたちの赤裸々なガールズトーク。そして優太の新たな決意とは……?
最後までよろしくお願いします!




