↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
81/92

055 AIによる大失業時代のコメリカに転移

旧ディープステートから新ディープステートへ


真夜中のサンフランシスコ。冷たい濃霧がベイブリッジを包み込む自室で、私は暗いモニターの前に座り、15年分の取材メモと録音データを追っていた。


私の名はアーサー。かつてワシントン・ポストで政権取材を担当し、のちにシリコンバレーの巨大テック企業を追う独立系ジャーナリストとなった男だ。


画面には、黄ばんだメモが映し出されている。日付は2020年代半ば。当時、世間はワシントンの連邦官僚組織——いわゆる「旧ディープステート」と、政権を揺るがす保守派の政治闘争に気を取られていた。だが、私はあの日、ある会員制クラブの薄暗いパーティーで耳にした、一人のテック富豪の言葉が頭から離れなかった。


「自由と民主主義は、もはや両立しない」


ワイングラスを傾けながら冷ややかに言い放った男の目には、既存の国家体制に対する徹底した蔑視が宿っていた。彼らにとって、議会での討論や選挙、行政の手続きといった合意形成プロセスは、単なる「遅くて非効率なバグ」に過ぎなかったのだ。


変化は静かに、しかし緻密に進んだ。


最初のステップは「政権中枢への架け橋」の構築だった。

彼らは自らが表舞台で出馬する野暮な真似はしなかった。代わりに、若く野心に溢れる弁護士や学者を見出し、巨額の政治献金とSNSアルゴリズムのバックアップによって、一夜にして上院議員、そして副大統領候補の座へと押し上げていった。政権の要所に「自分たちの代弁者」を配置したのだ。


第二のステップは「国家骨格の合法的奪取」だった。

ワシントンで「旧ディープステート(官僚組織)の解体」が叫ばれ、行政機能が弱体化していく陰で、テック富豪たちは国家の心臓部を次々と買い占めていった。

国防総省が依存する超高度通信衛星網、国家機密を保存する分散型クラウド基盤、インフラを制御するAIモデル、そして世論を形成する主要プラットフォーム。


かつて国家が自前で保持していた「主権の基盤」が、いつの間にか「特定民間企業の規約とサーバー」の上に置き換わっていたのだ。


そして、決定的な転換点が訪れた。社会的・経済的機能が麻痺し始めた「第3フェーズ」の混乱期だ。


旧市街で暴動が多発し、税収崩壊によって地方政府や警察機能が事実上停滞した時、政府は自ら治安を維持する能力を失っていた。連邦議会が空転する中、ホワイトハウスの閣僚たちが頭を下げて頼み込んだのは、大統領でも国防長官でもなく、シリコンバレーのCEOたちだった。


「Steralinkのアクセス制限を解除してくれ」

「わが軍の自動ドローン網のAIアルゴリズムをアップデートしてくれ」


その瞬間、完全な逆転が起きた。


かつては「規制される側の民間企業」だった男たちが、国家の存続を左右する「唯一のインフラ供給者」へと変わった。彼らは選挙で選ばれたわけでもなく、弾劾の手続きも受けない。だが、彼らがサーバーのスイッチ一つを切るだけで、一国の軍隊も警察も金融網も停止する。


こうして、連邦官僚(旧ディープステート)の破片の上に、「新ディープステート(New Deep State)」が誕生したのだ。


窓の外を見やる。遠くに見えるかつての市街地は、停電と治安悪化で漆黒の闇に沈み、遠雷のような銃声がときおり響く。だが、その数キロ先——高圧電流コイルとAI警備ロボットで遮断された「要塞化エリア」だけは、自前の核融合炉と巨大データセンターの光で、不夜城のように眩しく輝いていた。


「……国を乗っ取ったんじゃない」


私はボイスレコーダーに向かって、最後の取材メモを吹き込んだ。


「国が崩壊する過程で、インフラの鍵を握っていた彼らが『国そのもの』に成り代わったのだ。ワシントンの政治家たちは自分たちが主役のつもりでいたが、最初からテック富豪たちの用意したプラットフォームの上で踊らされていたに過ぎない」


新ディープステートのCEOたちは、今や要塞内部の快適なオフィスから、AIのダッシュボードを操作して自らの「領域」を統治している。彼らはもはや自らを実業家とは呼ばない。


彼らは、この荒廃した新世界の「CEO兼最高統治者」なのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。