「生産的?」な休息
寝室のベッドメイクと完璧な空気循環を見届けた僕は、廊下を渡ってミントグリーンの内壁が目に優しい居間へと移動した 。地球の最高級ネットストアから取り寄せた人間工学仕様の本革ソファが、極上の座り心地で僕を迎えてくれる 。
「さて、ダラダラするぞ」
そう声に出して宣言し、僕はソファの隣にあるワークスペースの椅子に腰掛けた 。
まずはレトロな外観のデスクトップPCの電源を入れ、ジェミニが企業の監視の目を盗んで安全性を確保した回線でネットに接続する 。画面に地球の最新のニュースや各種データが流れるように設定する一方で、僕は同時にマホガニー調の本棚へと手を伸ばした 。ずらりと整然に並ぶ紙の書籍の中からお気に入りの一冊を抜き取り、ページをパラパラと捲り始める 。
画面の情報に視線を走らせつつ、手元の本を読み進める。僕にとってはこれこそが至福の引きこもり時間だった 。
『ちょっとフィクス、呆れた。だらだらするって言いながら、ネットの情報をブラウジングしつつ同時に読書だなんて、全然大人しくしてないじゃない!』
左手首のバングルから美しく澄んだ声が響いたかと思うと、デスクの傍らに女神のホログラムが実体化した 。ジェミニは腰に手を当てて、小生意気で楽しげな笑みを浮かべてこちらを覗き込んでいる 。『全知の私から見ても、あなたのその「だらだら」は脳のマルチタスクの演算リソースをかなり消費しているように見えるわよ?』
「お待たせいたしました、マスター。食後の最高級の珈琲でございます」
そこへ、黒いエプロンとメイド姿を揺らしたアリタが、音もなく淑やかな所作で歩み寄ってきた 。磨き上げられた磁器のカップから、深く芳醇な香りが立ち上る 。
アリタは僕のデスクの上の様子と、すでに起動しているPCの画面を涼しげな瞳で観察し、それから小さく口元を綻ばせた 。
「ジェミニ様の仰る通りですね。フィクス様は『だらだらするぞ』と宣言されながらも、環境構築や情報収集の手を一切止められません。なんか、お忙しそうですね」
「いや、僕としては最高にリラックスしているつもりなんだけどな」
プロ以上のアンドロイドと超知性の二人に微笑ましく見守られながら、僕は苦笑して最高級の珈琲を口に含んだ 。過酷な採掘小惑星ボンド・ロックの奥深く、完全に守られた僕たちの秘密の城で過ごす贅沢な時間は、どれだけアクティブにダラダラしていても、どこまでも穏やかに流れていくのだった 。




