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053 AIによる大失業時代のコメリカに転移

旧市街・一般居住区にとどまる選択をした人々


かつて繁華街として栄えていた旧市街のメインストリートは、いまや廃墟と化した無数の無人店舗と、路上に打ち捨てられた車両が埋め尽くす荒涼とした空間へと姿を変えていた 。


行政や警察機能が事実上麻痺したこのエリアでは、街灯が点灯することは二度となく、夜が訪れれば深い闇と不気味な静寂が街を包み込む 。


「おい、来たぞ! 盾を構えろ!」


日暮れ時、錆びついたシャッターが立ち並ぶアーケード街の入口で、自警団の男性が怒号を上げた 。


彼らが身を守るために手にしたのは、壊れた自動販売機の外装パネルや、建築現場から集めてきた粗悪な金属板を溶接した手製の防護盾だ 。


路地裏から現れた数人の若者グループが、食料の強奪を狙ってバールや鉄パイプを手に迫ってくるが、固くスクラムを組んだ自警団の前に手出しができず、舌打ちをして闇の中へと消えていった 。


富裕層やAI企業が自前の警備ロボットと強固な壁で囲われた「要塞化エリア」へと引きこもり、自治体の公的サービスが完全に途絶した今、この一般居住区に残された人々に残された道は互いに身を寄せ合うことだけだった 。


「今日の水はこれだけよ。大切に使ってね」

元・大型スーパーの駐輪場を回収して作られた避難コミュニティでは、女性たちがドラム缶で雨水をろ過し、集積した貴重な飲料水を住民たちへ均等に分配していた 。


スーパーの棚はとうの昔に荒らされ尽くして空っぽであり、正規の物流網が崩壊した現在、食料や日用品を手に入れる手段は限られている 。


かつての地下駐車場では、住民たちが持ち寄った缶詰や乾燥食料、手作りの野菜などを取引する非フォーマルな闇市が自然発生的に開かれていた 。通貨への信用は暴落しており、取引の基本はもっぱら物々交換や、コミュニティ内での労働提供といった相互扶助である 。


「なあ、要塞エリアの清掃求人に応募したやつがいるらしいぜ。運が良ければ向こうの余り物の食料をもらえるかもしれないってさ」


「へっ、あんな金持ちどもの敷地の外でゴミ拾いさせられるのがオチだろ。……だが、背に腹は代えられないか」


焚き火を囲む男たちが、かじかんだ手をかざしながら低く囁き合う 。


壊れたビルや打ち捨てられたマンションの部屋を住処とし、電気も水道も途絶えた環境下で、人々は割れた窓にビニールシートを貼り、簡易的な薪ストーブで暖を取りながら寒さを凌いでいた 。


いつ襲撃を受けるかわからない絶望的な恐怖と、日常的な物資不足に晒されながらも、人々は崩壊した都市の破片をかき集め、生きて明日を迎えるために必死で泥臭い秩序を維持し続けていたのである 。


---


旧市街からの脱出・郊外や農村部への移住を選択した人々


都市部のインフラが次々と麻痺し、治安が急速に悪化した旧市街を捨てた人々の一部は、わずかな家財道具と農工具を積んだ手押し車や壊れかけの車両に乗り、郊外の幹線道路を北へと目指した 。


彼らが辿り着いたのは、かつて広大な野菜畑が広がっていたものの、物流の途絶と燃料不足によって放棄された郊外の農村地帯だった 。


「おい、そっちのうねをもっと深く掘れ! 雨水が溜まったら根腐れするぞ!」


午後の日差しが照りつける果樹園の跡地で、日焼けした男たちが泥にまみれながらくわを打ち込んでいた。


ここでは、旧市街から逃れてきた数十世帯の家族が寄せ集まり、自然発生的な開墾集落を形成している 。かつてオフィス労働者や接客業に就いていた人々が、手探りで土を耕し、手作りの簡易温室や雨水ろ過装置を組み立てていた 。


「今日の収穫はこれだけか……。まだまだ全員の腹を満たすには程遠いな」

元・トラック運転手の男性が、コンテナに集められた不揃いのジャガイモとカブを眺めながら溜息をついた。


都市から脱出したことで、旧市街のような街頭での襲撃や突発的な暴動に巻き込まれるリスクは激減した 。


しかし、ここには「食料の途絶」と「資材の枯渇」という別の現実が重くのしかかっている 。


「お父さん、またトラックの音が聞こえる!」


見張り台として使われている古びたサイロの上から、少年の叫び声が上がった。


作業していた住民たちが一斉に農工具を構え、緊張した面持ちで道路の方角を見つめる。


現れたのは、過酷な旧市街を拠点とするギャング団の探索車両だった 。武装した男たちが車窓から身を乗り出し、開墾された農地とプレハブ小屋の集落を品定めするように睨みつけている。


集落のリーダー格である男が進み出で、手製のアサルトライフルを低く構えて威嚇の姿勢を見せると、ギャングたちは嘲笑を浮かべながら暴走音を立てて走り去っていった。


「今はまだ手出ししてこないが……あいつらも地上の食料が尽きれば、いつここを奪いに来るかわからないぞ」


「ああ。井戸掘りもまだ半分の深さだし、次の冬を越せるだけの保存食が集まるかどうか……」


住民たちは額の汗を拭いながら、互いに不安そうな視線を交わした。


電気もガスも届かない田園風景の中、人々は自給自足の基盤を作り上げようと泥臭く奮闘しながらも、常に資材の限界と外部からの脅威という不確定な未来に怯え続けていたのである 。


---


要塞化エリアへの従事・サービス提供を選択した人々


高大なコンクリートの防壁と、その上に張り巡らされた高圧電流コイル 。最新型の四足歩行警備ロボットが壁の上を機械的に巡回する「要塞化エリア」のゲート前には、夜明け前から異様な熱気を孕んだ人だかりができていた 。


彼らは、治安崩壊とインフラ途絶に見舞われた旧市街を離れ、要塞の「おこぼれ」に与かろうと集まってきた人々だ 。


「本日募集する清掃員および外郭設備の保守要員は三十名だ! IDタグを受け取った者から順番にゲート内へ入れ!」


強化ガラスに守られた監視ブースから、民間警備会社の中年男性が合成音声混じりのスピーカーで冷淡に告げた 。


途端に、押し寄せた群衆の間で激しい押し合いが始まる。


「頼む、入れさせてくれ! 3日何も食べてないんだ!」


「俺は元・設備エンジニアだ! どんな配管修理でもやってやる!」


悲痛な叫び声が飛び交う中、警備ロボットが重厚な警棒を地面に叩きつけ、威嚇音を鳴らして群衆を押し返した 。


運良くIDタグを勝ち取った人々は、厳重な消毒スプレーと金属探知のゲートをくぐり、要塞エリアの敷地内へと足を踏み入れる。そこは地上の荒廃が嘘のように、青々とした人工芝と美しい高層ビル群が広がる別世界だった 。


しかし、彼らに許されているのは「外郭の清掃や重労働」のみだ 。内部の居住エリアに入ることは固く禁じられており、少しでも境界線を踏み越えれば、容赦なく自動防衛システムが作動する 。


「おい、手元を休めるな! 日没までにこの外壁の落書きと汚れを全て落とせ!」


監督官の罵声を受けながら、元・オフィスワーカーの男性は汚れた作業服の袖で汗を拭い、高圧洗浄機を握りしめた。


過酷な肉体労働の報酬として夕刻に支払われるのは、紙くず同然となった紙幣ではなく、小さな合成栄養食のパック2つと、数リットル分の清浄な飲料水パックだけだ 。


「……たったこれだけかよ」


「文句を言うな。外の旧市街で強盗に怯えながら腐った水を飲むよりは100倍マシだろ」


作業を終えた男たちは、ゲートの外側に広がるプレハブとテントで構成された「従事者キャンプ」へと戻っていく 。


要塞の壁が落とす巨大な影の下、人々は配給された僅かな食料を貪りながら、内側の眩い明かりを見上げていた 。彼らは要塞の豊かさに寄生し、その壁に守られると同時に、壁の内側の富裕層からは「いつ暴徒化するかわからない危険な外部者」として厳重に監視され続けるという、歪な均衡の中で生き長らえていたのである 。


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