052 AIによる大失業時代のコメリカに転移
地下5階セーフハウスのリビングルーム
地上の泥や湿気とは完全に無縁な快適な空間で 、フィクスたちはホログラムモニターに映し出される映像を眺めていた 。
高精細な映像には、地下2層の食糧倉庫や居住区画に雪崩れ込み 、宝の山を前にして子供のようにはしゃぎ回るギャングたちの姿が鮮明に映し出されている 。マイクが拾い上げる音声も実にクリアで、豪華なソファに飛び込む音や、缶詰やジュースを貪り食う男たちの歓喜の声がリビングいっぱいに響き渡っていた 。
「うーん……凄まじい歓喜の声を上げているね」
フィクスがアリタの淹れてくれたコーヒーを一口含み、苦笑いを浮かべた 。
だが、その映像を見つめながら、アリタが静かにコーヒーポットをトレイへと戻し、眉をひそめた 。
「マスター。地上のファームハウスはきちんと整理整頓し 、冷蔵庫も空にして 、しばらく人間が住んでいなかったかのように見せかけたはずでございますが…… 」
アリタのどこか詰問するような視線がフィクスに向けられる 。
「表のドアを開けてしまわれたのは、少々軽率だったのではないでしょうか」
『そうよ!』
すかさずバングルからホログラムを弾けさせたジェミニが、肘を張ってフィクスを指さした 。
『住人が慌てて逃げ出したと思われると、逃げた人間の捜索やら逃走ルートの詮索が始まっちゃうから、わざわざ生活感を消して綺麗に片付けたんでしょ! なのに、あんたがわざわざカギを開けてドアを開け放しにするから、せっかくの計画がちょっと怪しくなっちゃったじゃないの!』
「あはは……ごめんごめん」
二人の追及に、フィクスは困ったように頭を掻いた。
「寝ぼけていたからさ、しばらく住んでいなかったように見せかけるっていう計画が、すっかり頭から抜けていたんだよ 」
「『ごめん』で済めばセキュリティは不要でございます」
「うぐっ……。で、でもさ、今のところ襲撃者の誰も、逃げ出した人間がいるなんて思ってないみたいだよ? ほら、みんな肉と野菜に夢中だし」
フィクスがモニターを指さして弁明を試みるが、アリタの厳しい表情は崩れなかった 。
「どうでしょうか。あのギャング団の中には、非常に頭の回る人間がいるようです 。何か微かな違和感を抱いているかもしれません」
『そうよねえ。最悪でも“パニックで逃げ出した”と思ってくれればまだマシだけど、もし“この敷地のどこかに隠れている”なんて思われたら、本格的な捜索が始まっちゃうわよ。地下3層への入り口を探されたりしたら、対応が面倒くさくてたまらないわ』
「……うう、本当にごめん」
フィクスは肩をすくめ、降参するように両手を上げた 。
「でも、過ぎてしまったことは仕方ないよ。今はしばらく様子を見るしかないかな 。……彼らのためにも、余計な詮索をしないで素直にあの天国を楽しんでくれることを祈るよ」
フィクスは祈るように手を合わせると、冷めないうちにともう一度コーヒーを口に運ぶのだった 。




