051 AIによる大失業時代のコメリカに転移
地下貯蔵庫の奥で見つかった隠し扉。その先へと足を踏み入れたマーカス(ベア)率いるギャングたちを待ち受けていたのは、複雑に枝分かれした地下1層の迷路のような構造だった。
「慎重に行け。ドローンと探査ロボットを先行させろ」
レオ・ヴァルデス(ブレイン)の冷徹な指示のもと、構成員たちは手製の金属盾を構えながら、一歩一歩確かめるように薄暗い通路を進む 。
だが、警戒していた自動迎撃兵器の掃射も、床の落とし穴や爆薬といった危険なトラップが牙をむくこともなかった。通路は不気味なほど静まり返り、先行させた探査ロボットのカメラ映像にも危険を示す反応は一切検知されない。
そのまま迷路の死角をいくつか曲がり、突き当たりの下降階段を降りていくと、彼らは地下2層へと到達した。
そこは地下1層の武骨な雰囲気とは打って変わり、ほのかに暖かな空調と最新の照明設備が行き届いた清潔な空間だった。
「……ボス、前方に頑丈なドアがあります」
前衛の構成員が指し示した先には、左右に伸びる重厚な金属扉がいくつも並んでいた。
「探査ロボットで開けさせてみろ」
レオが手元のタブレットを操作し、ロボットの機械アームをアタッチメントへ差し込ませる。静かなモーター音とともに重厚なスライドドアが左右へ開くと——その奥の光景に、ギャングたちの息が止まった。
そこは、天井近くまで打たれたスチールラックに、山のような物資が整然と積み上げられた巨大な食糧倉庫だった 。
「お、おい……これを見ろよ……!」
構成員の一人が、かろうじて声を絞り出した。
高級肉の真空パック、色鮮やかな冷凍野菜の袋、缶詰の段ボール箱、乾燥食料のパレット、さらには箱ごとの医療品や大容量の充電バッテリー……過渡期の旧市街では金を出しても絶対に手に入らない宝の山が、各部屋に分別されて大量に保存されていた 。
「冗談だろ……? こんなの、俺たち全員が何年食っていけるだけの量だ……!?」
さらに、レオが別のドアへと探査ロボットのアームを差し込ませて解錠した。
ドアが開かれた瞬間、暖かみのある柔らかな照明が室内に灯った。そこに広がっていたのは、ふかふかのソファ、最新型の大型電化製品、清潔なベッド、そして通信設備まで完備された、驚くほど快適な居住区画だった 。地上の泥や埃、停電の闇とは完全に無縁な、夢のような空間がそこにあった 。
「……安全だ。人影も、トラップの反応もない」
レオが端末から目を離し、確認の言葉を口にした瞬間だった。
それまでピンと張り詰めていたギャングたちの緊張が、一気に弾けて吹き飛んだ。
「うおおおっ……! 本物だ! 本物の肉と野菜だぞっ!」
「すげえ……! 電気も水道も生きてるぞ!」
無言の潜入作戦を守り続けていた男たちが、子供のようにはしゃぎ声を上げて居住区画へと雪崩れ込んだ。
大柄な構成員が高級ソファへと勢いよく飛び込み、その柔らかさに歓声をあげる。別の男たちはパレットから缶詰やジュースのパックを引っ張り出し、蓋を跳ね上げて夢中で口へと放り込んだ。
「う、うめえ……! こんなうまいもの、何年ぶりに食ったかわからねえ……!」
「生き返る……! 俺たち、ついにやったんだ……!」
過酷な旧市街で飢えと恐怖に震え、泥水をすするような生活を強いられてきた男たちの目には、感涙すら浮かんでいた 。
ベアは豪快に胸を張り、感極まる部下たちの肩を力強く叩いた。
「ハハハッ! 聞いた通り、ひ弱なIT野郎が溜め込んだパラダイスだったな!」
ベアの太い笑い声が、快適な地下2層の居住区画に響き渡った。
ただひとり、参謀のレオだけは端末を手に周囲を見回し、このあまりにも出来過ぎた「天国」に対し、微かな違和感を拭いきれずにいた。




