050 AIによる大失業時代のコメリカに転移
慎重な室内探索を終え、ファームハウスの1階リビングにマーカス(ベア)をはじめとするギャングの主だった面々が集まった。
外からの視線を遮るように厚手のカーテンが固く閉ざされ、抑えめなランタンの明かりの下、次々と部下たちからの報告がもたらされる。
「ボス、敷地外縁および周辺農道に怪しい気配はありません。他組織の伏兵や襲撃の気配もゼロです」
「母屋の周囲を捜索しましたが、屋外に物資を保管するような大型ストレージや倉庫は見当たりませんでした」
「裏口および勝手口の監視班からも報告です。ここから逃げ出したような人間の形跡や足音は確認できませんでした」
「ファームハウスの中も2階から屋根裏まで完全にクリアです。隠れている人間はいません」
矢継ぎ早に届く報告に、ベアは腕を組みながら静かに頷いていた。最後にキッチンおよび地下の検分に向かっていた構成員が、拍子抜けしたような表情で報告をつないだ。
「キッチンの大型冷蔵庫はカラでした。ただ、地下の食品貯蔵庫に若干の缶詰と保存食料が残されています。……ですが、情報にあったような膨大な物資の量には程遠いです。せいぜい俺たちが数日食いつなげる程度しかありません」
「なんだと……?」
ベアが太い眉をひそめ、参謀であるレオ・ヴァルデス(ブレイン)へと視線を向けた。
レオはリビングの中央で腕を組み、得られた情報を頭の中で素早く整理していた。
(おかしい……。表の玄関ドアが開いたままだったのは謎だが、室内に人間の残り香や乱れた生活感がない。家具も埃ひとつなく整然と配置されている。これを見る限り、このファームハウスは数日前に慌てて逃げ出したのではなく、もっと前に整然と放棄されていたと考える方が自然だ)
だが、それなら別の大きな疑問が浮上する。
(だけど、大量の物資が残っていないのは決定的な矛盾だ。僕が事前に遮断回線から引き出した物流のデータには、大停電の直前に膨大な量の食料や資材、充電機器がこのファームハウスへ搬入された確実な記録があった。そして、それを外部へ運び出したという記録はどこにも存在しない。……絶対に、この敷地のどこかに大量の物資が隠されているはずだ)
レオが思考の深層へと潜り込み、死角が無いか再計算しようとした、その時だった。
「ボス! レオ!」
地下貯蔵庫の捜索にあたっていた構成員の一人が、息を切らせて1階リビングへと駆け込んできた。その顔には興奮の色が浮かんでいる。
「地下貯蔵庫の奥だ! 積み上げられた空き箱の裏側に、壁と一体化した隠し扉を見つけたぞ!」
---
地下貯蔵庫の最奥。積み上げられた空き箱の隙間から露わになった扉を前に、マーカス(ベア)率いるギャングたちは一滴の汗を握るような緊張感の中にいた。
レオとベアを含むメンバー全員が、地下貯蔵庫から退避し手製の金属盾の後ろへと身を潜める。
扉の前に立たされた小型探査ロボットのアームが、金属ノブへと慎重に指先を掛ける。
「よし……全員、退避したな」
ベアが後ろを振り返り、構成員全員が隙間なく防護体制を取ったことを確認してから、深く重い声で命じた。
「やれ」




