048 AIによる大失業時代のコメリカに転移
地下5階のセーフハウス 。地上の混乱や湿気とは無縁の心地よい空気が満ちるリビングで、フィクスは深々とソファに腰掛け、アリタが丁寧に淹れてくれた出来立てのコーヒーを一口含んだ 。
「さて、ジェミニ。地上の様子を見せてくれるかい?」
『はいはい、了解よ!』
ジェミニが指先を弾くと、リビング中央の空間に複数の超高精細なホログラムモニターが浮かび上がった 。
画面に映し出されたのは、夜視カメラを搭載した特製ドローンが上空から捉えた果樹園外縁のリアルタイム映像だ 。ジェミニの処理によって昼間のように明るく鮮明で、周囲の微細な足音や金属音までもがクリアな音声として拾い上げられている 。
映像の端で、影のように潜んでいた集団のひとりが小型端末を操作した 。直後、上空を巡回していた市販の警告用ドローン2台の通信が途絶した 。
「おや、まずはジャミングで市販の警告用ドローンを無力化したね」
『うちの特製ドローンは独自システムで完全保護されているから、あんな簡易的な電波遮断じゃビクともしないけどね!』
ジェミニが誇らしげに胸を張る 。画面の中では、続けて小柄な少年——レオが、小型の盾を溶接した車輪型探査ロボットを果樹園の草むらへと侵入させていた 。
敷地内を移動する探査ロボットに対し、暗がりから現れた市販のガードロボットが即座にアサルトライフルを指向し、短い掃射を浴びせる 。
——バコン、バツンッ!
鈍い打撃音がモニター越しに響き、弾丸が金属盾にはじかれてポロポロと地面に落ちた 。
「ふむ……自前のロボットを走らせて、うちのガードロボットの実力をはかっているのかな」
フィクスが感心したようにマグカップを傾ける 。
画面の中では、探査ロボットが弾丸を弾いた音を確認したレオがハンドサインを作って掲げた 。
次の瞬間、待機していたギャングたちが一斉に動き出した 。
「へえ……すごいな」
フィクスは思わず身を乗り出した 。
画面に映る構成員たちは、誰一人として無駄な声や叫び声を上げない 。完全な無言のまま、徹底された統率のもとで手信号通りに連携している 。
しかも、役割分担が実に洗練されていた 。大柄な前衛の男たちがジャンク金属で作られた重厚な手製防弾盾を掲げて突進し、ガードロボットが放つゴム弾を完璧に殺す 。そして間髪入れずに後衛の仲間たちが盾の隙間からバールや大型ハンマーを叩きつけ、関節部に鉄パイプを突き立ててガードロボットを的確に解体・破壊していく 。
「まずジャミングで警告用ドローンを無力化し、自前のロボットで相手の攻撃力を計ってから、ガードロボットの排除に動く……よく考えているね」
フィクスは画面の中の鮮やかな手際に思わず拍手を送りたそうな顔をした 。
「しかも役割分担をきっちりして、手慣れていて、静かに無駄のない動きで、統率もしっかりしているみたいだね」
「左様でございますね、マスター。暴力に任せた粗暴な集団というよりは、高度に訓練されたプロを思わせます」
アリタが静かにコーヒーポットを抱えながら同意すると、フィクスは満足そうに深く頷いた 。
「うん。これなら……うちの防衛要員にふさわしいかな」
地上のガードロボットが無力化され、いよいよファームハウスへと迫ってくる最鋭のギャングたちを見つめながら、フィクスは笑みを深めるのだった 。




