046 AIによる大失業時代のコメリカに転移
午前3時25分。静寂に包まれた果樹園の外縁、薄暗い樹々の死角に、マーカス(ベア)率いるギャングの面々が息を潜めて待機していた。
全員が廃棄車両の装甲板やジャンク金属から作り出した手製防弾盾を抱えている。過渡期の過酷な街を生き抜いてきた彼らの顔には冗談めいた余裕はなく、ただ獲物を狙う猛獣のような鋭い光が宿っていた。
参謀のレオ・ヴァルデス(ブレイン)は、小型端末の画面に集中しながら携帯型の通信遮断器を作動させた。上空を無音で巡回していた2台の警告用ドローンはこれでどこにも通信を送れなくなったはずだ。
(まずは第一段階クリアだ……)
レオは間髪入れずに、自ら持ち込んだ小型の車輪型探査ロボットを草むらへと滑り込ませた。ロボットの前部には金属盾が溶接されており、レオの手元のタブレットにはロボットのカメラ映像がリアルタイムで共有されている。相手の正確な火力と反応速度を測定するための「観測気球」だった。
果樹園の敷地内を数メートル進んだところで、暗がりから武骨なシルエットが姿を現した。果樹園側の防犯用ガードロボットだ。探査ロボットの侵入を感知するやいなや、即座に警戒用アサルトライフルを指向し、短い掃射を浴びせてきた。
——バコン、バツンッ!
乾いた金属音とは異なる、どこか重く鈍い打撃音が暗闇に響いた。探査ロボットの金属盾に当たった弾丸は金属を貫通することなく、ポロポロと潰れて地面に落ちる。
「……ゴム弾か」
レオは手元の受音データと跳弾の音から、相手の武装が非致死性の暴動鎮圧用ゴム弾であることを正確に察知した。
(IT野郎め。まだ『法』や『司法』が自分を守ってくれると本気で信じ込んでいるんだな。この暴力と略奪が支配する旧市街の現実を何も分かっちゃいない)
レオは冷たく心の中で嘲笑すると、素早く手を出してハンドサインを送った。
【計画通り、一気に突入して制圧せよ】
マーカス・ギャングの構成員たちは恐ろしく熟練していた。ベアの徹底した統率のもと、誰一人として一言の私語も発しない。殺気すら消し去った無言の静寂のまま、提示された手信号に従って一斉に動き出した。
「——っ!」
先頭の巨漢たちが手製の金属盾を掲げて突進する。ガードロボットが吐き出すゴム弾の連射が盾を叩き、鈍い衝撃音を撒き散らすが、鍛え上げられた男たちの前進を止める術にはならない。
無言のまま距離を詰めた構成員たちは、盾の隙間からバールや大型のハンマーを叩きつけ、あるいは関節部に鉄パイプを突き立てて破壊した。精巧ではあるが非致死性兵器しか持たない地上の自動ガードロボットは、過酷な実戦経験を積んだギャングたちの無駄のない連携の前に、次々と沈黙させられていく。
叫び声ひとつ挙がらない完全な静寂の略奪劇。数分もしないうちに、ファームハウスの周囲を固めていた地上の警備網は完璧に制圧された。




