043 AIによる大失業時代のコメリカに転移
暗闇の中、LEDランタンの心細い光が、雑居ビルの一室に積み上げられた物資の影を揺らしていた。
パイプ椅子に腰掛け、痛む脇腹を擦りながら缶詰を噛み砕く巨漢、マーカス・“ベア”・ホリス。
その傍らで、使い古されたタブレット端末の画面に視線を走らせる華奢な少年、レオ・ヴァルデス——通称「ブレイン」。
この崩壊した旧市街において、二人率いるストリートギャングが「無傷に近い形」で物資を強奪し、生き残れている理由は、彼らの成り立ちと絆にあった。
二人の出会いは、AIによる自動化の波が押し寄せ、教育現場すら崩壊しかけていたかつての低所得層学区(課題学区)の学校にまで遡る。
当時から慢性的な栄養不足で小柄だったレオは、貧弱な見た目と口数の少なさから、粗暴な不良生徒たちの格好の標的(いじめの対象)にされていた。
それを日常的に身体を張って庇い続けたのが、当時から並外れた体格と強い正義感を持っていたベアだった。
ベアにとってそれは「弱者を放っておけない」という本能に過ぎなかったが、絶望的な環境にいたレオにとって、その厚い背中は生涯をかけて返すべき深甚な救いとなった。
だが、本当の「過渡期(大失業時代)」が訪れると、二人の立場は単なる「保護者と被保護者」から「対等の相棒」へと変貌を遂げた。
ホワイトカラーが失職し、最後に逃げ込んだ肉体労働の現場までがフィジカルAIと自動化機器に奪い去られた第2フェーズ。
都市の税収は激減して警察機能は麻痺し、旧市街はインフラも手放された野放しエリアと化した。
食料を求める人々が暴徒化する中で、腕力自慢の男たちが次々と力任せの略奪に走り、ドローンの自動迎撃や他のグループとの不毛な潰し合いで命を落としていった。
ベアはいち早く悟っていた。「腕力だけでは、この壊れた世界を生き残れない」と。
そして、ベアのその危機感を支えたのが、学校が荒れ教育不毛の貧困地域では珍しいレオの持つ「知恵」だった。
幼少期に貧困の中で叔父の遺品であった日本の翻訳されたコミックを読み漁り、文字と状況描写(絵)で構成されているコミックにより視覚情報と文脈をすり合わせることで、語彙力、読解力、文脈推論力を身につけたレオ。
文章化・言語化の能力が高いため、ジャンクから直した端末でAIに対して精度の高い質問を入力し、最適な知識を引き出す術を身につけ、AIを教師の代わりに高度な知識を吸収した彼は、崩壊した街で独自の「武器」知恵を開花させていた。
廃止された通信回線を迂回させて盗電経路を確保する技術。
物流ドローンや自動運搬車の巡回アルゴリズムを解析し、護衛の隙を突く戦術論。
そして何より、AIの監視カメラの死角を割り出し、街頭映像を誤認させる情報処理の冴え。
レオの提案により、ベアは似た境遇の若い生き残りたちを集め、ひとつの自衛組織を結成した。
現場で圧倒的な威厳と武力を振るい、仲間を命がけで守るリーダーの「ベア」。
その背後で、計算と情報収集によってチームの生存確率を極限まで引き上げる参謀の「ブレイン(レオ)」。
二人の完璧な役割分担と信頼関係こそが、他の粗暴な集団が自滅していく中で、彼らを旧市街の「最鋭のギャング」として生き残らせてきた背景だった。
「……ベア。明日、さっそく果樹園の偵察に取りかかるよ」
タブレットを抱え直したレオが、静かだが確固たる声で言った。
「ああ。焦る必要はないが、期待しているぞ、ブレイン」
ベアは頼もしそうに口元を緩めた。
二人の視線の先にあるのは、ただの糧の確保ではない。この腐敗と飢餓に満ちた泥沼の都市から脱出し、自分たちの仲間全員を安全な場所へと引き上げるための、起死回生の好機だった。




