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040 AIによる大失業時代のコメリカに転移

少し話が戻り。

地下5層に発電設備を設置するお話です。


僕は手元のメモ端末に浮かび上がった三つの設計案を見つめた 。


「地下5階の聖域セーフハウスを完全に自給自足で稼働させるための心臓部……自家発電設備についてなんだけどさ」 僕が声をかけると、エプロン姿のアリタがトレイを手に静かに傍らに寄り添い、左手首のバングルからは青い光が弾けてジェミニのホログラムが空間に浮かび上がった 。


「熱源はこの溶岩パートの約1000℃におよぶ放射熱 。そして冷却源には、すぐ上の地下4階に設けた氷結パートの冷気循環ラインを利用する 。条件は完璧なんだけど、肝心の発電方式でちょっと迷っていてね。ジェミニ、君の意見を聞かせてくれないか?」


僕は端末の画面をジェミニのホログラムに向けてスライドさせた 。


「候補は三つ 。

案Aは、溶岩の放射熱で熱交換パネルを通して作動流体を熱し、蒸気でタービンを回す『間接熱交換式ORC(有機ランキンサイクル)発電』 。


案Bは、熱でシリンダー内のガスを膨張・収縮させてピストンを動かす『スターリングエンジン発電』 。


案Cが、可動部のない半導体素子で直接電気を生み出す『熱電変換(ゼーベック効果)発電』だ 。


……どれも一長一短があって、決め手にかけるんだよ」


僕が一口コーヒーを飲み下すと、ジェミニはホログラムの指先を顎に当て、データベースの数値を高速で照合するように可憐に首を傾げた 。


『ふむふむ! 15億MPのサポートがあるとはいえ、このダンジョン内での連続自動運転とメンテナンスの手間を考えると、どれも癖があるわね!』 ジェミニが弾むような声で三つの案を空中にはじき出した 。


『まず案Cの「熱電変換」だけど……可動部タービンやピストンがないから静音で故障もしにくいのは魅力的ね 。でも変換効率が5〜10%と低すぎるわ ! 5kWから10kWの出力を安定して出そうと思ったら、数十平方メートル規模の素子パネルが必要になって、水冷管の取り回しだけで地下5階のスペースが埋まっちゃう 。メンテナンスフリーとはいえ、初期構築と素子の劣化交換コストを考えるとパスかな!』


「なるほどね。可動部がないのは捨てがたいけれど、効率の低さと設置面積の肥大化がネックか」


『そう! だから本命は案Aの「ORC/蒸気タービン」か、案Bの「スターリングエンジン」の二騎打ちね !』

ジェミニはホログラムの二つのウィンドウを強調してみせた 。


『案A(ORC発電)は、市販の小型タービンが利用できるから実績と信頼性は抜群よ 。効率も10%〜20%と十分 。ただし、流体を高圧蒸気化して循環させるポンプや復水器、バルブ類の機械的摩耗が発生するから、定期的なオイル交換やシール材のメンテが必要になるわ 。……まあ、うちには作業用ヒューマノイドたちがいるからクリアできる範囲だけどね 』


「うん。そして案Bのスターリングエンジンはどうだい?」


『スターリングエンジンは、熱源と冷却源の「温度差」が大きいほど高効率を発揮する性質があるの 。約1000℃の溶岩放射熱と、氷結パートの極低温を利用できれば、変換効率は15%〜25%と三つの中で最高値を叩き出せるわ ! 構造も比較的シンプルだしね 。ただ、シリンダーのピストンリングや軸受の機械的劣化は避けられないから、やっぱり数年単位での定期オーバーホールは必須になるわね』


二人のやり取りを静かに聞いていたアリタが、淹れたてのコーヒーポットを片手に静かに口を開いた 。


「マスター。いずれの方式を採用するにいたしましても、露出溶岩からの強烈な放射熱対策と、周囲に充満する亜硫酸ガスや塩化水素による配管の劇的な腐食対策……そして表面の固化にともなう熱源変動への対策は不可欠でございます」


「そうだね、アリタ 。溶岩に金属管を直接触れさせたら一発で溶けるか腐食する 。高融点のインコネル合金やセラミックス被覆を施した受熱パネルを設置して、溶岩とは一定の距離を保った非接触の『放射熱回収構造』にする必要がある 」


僕が深く頷くと、ジェミニがパンッと手を叩いた 。


『決まりね、フィクス ! 私のおすすめは、最高効率を誇る「案B:スターリングエンジン発電」を主軸にしつつ、信頼性の高い「案A:ORC発電」をバックアップとして並列設置するハイブリッド構成よ !』


「ハイブリッド構成?」


『そう! 平常時は最も効率が良いスターリングエンジンで氷結パートとの温度差を最大限に活かして高効率発電を行うの 。そしてメンテナンス時や熱源の温度変動時にはORCタービンへ流体を切り替えて連続給電を維持する ! 腐食性の火山ガス対策にはセラミックコーティングと非接触放射受熱を施して、維持管理は地下1階の作業用ヒューマノイドたちにスケジュールを組んで任せればいいわ 』


「なるほど……! 効率と冗長性バックアップ、双方を兼ね備えた完璧なシステムになるね」


僕が満足して微笑むと、アリタも静かに微笑みを浮かべ、僕のカップに温かいコーヒーを注ぎ足してくれた 。


「マスター、素晴らしいご決断です。これでお食事や水耕栽培場、セーフハウスの全ライフラインは、地上の混乱や物流ブラックアウトから完全に切り離された無敵の自家発電網によって支えられることになります」


「よし、そうと決まれば設計図のファイナライズに入ろうか。美味しいコーヒーのおかげで、いいアイデアがまとまったよ」


溶岩のほのかな赤光が照らす地下空間で、僕たちの「箱舟」の心臓部は、揺るぎない確信とともにその設計を完了させようとしていた 。


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