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039 AIによる大失業時代のコメリカに転移


2034年。


地下5階におよぶ僕たちの「箱舟」——ダンジョンの整備と、何年分もの膨大な備蓄物資の搬入作業は、ついにほぼ完了を迎えていた。


地下1階に一時保管されていた食料や各種資材は、掘削と設備工事の完了にともなって順次地下2階の居住用ストレージや地下4階の本格氷結ストレージへと移設され、広大な地下迷路は本来の防衛機能を遺憾なく発揮できる状態へと生まれ変わっている。


そして今日、僕は地下3階のセキュリティ区画で、要塞の物理的防衛を担う「警備ロボット」たちの最終調整を行っていた。


「マスター、セキュリティユニットの起動シーケンスがすべて正常に完了いたしました」


傍らに立つアリタが、手元の端末の数値をチェックしながら静かに報告してくれる。僕たちの前には、武骨で頼もしいシルエットを備えた四輪駆動型の警備ロボットが整然と並んでいた。


「ありがとう、アリタ。……うん、ベース素体にこれを選んだのは大正解だったね」


僕は満足げにロボットの強固なフレームに手を触れた。


『ふふん! 銃の反動リコイルに耐える重量と、ダンジョンの入り組んだ通路を破綻なく走り抜ける走破性を両立させる素体探しは大変だったんだから!』


左手首のバングルから、ジェミニが誇らしげに声を弾ませる。


「ああ、ジェミニの言う通りだよ。元々は屋外のプラント点検や危険地帯の研究開発用として市販されていた、アークテック社製の『レンジャー4WD』という自律走行プラットフォームで正解だった」


僕はその特徴をアリタに説明した。アリタはそんな事は百も承知であろうけれども、まるで初めてのように僕の話を聞いてくれる。


「この素体の最大強みは、独立懸架サスペンションと四輪それぞれに独立したインホイールモーターを搭載している点にある。悪路や階段の段差でも車体を完璧に水平に保ちながら高いトルクで踏破できるし、左右のタイヤを逆回転させることでその場での360度超信地旋回も可能だ。そして何より、素体の状態でも80キロ以上の積載能力を持つ強固なスチールシャーシと、相応の自重を備えている」


「なるほど……。銃器を搭載して掃射した際のアクション・リコイルを受け止める物理的質量と、防衛迷路の曲がり角を即座に曲がり切る機動力を兼ね備えていた、というわけですね」


アリタが深く感心したように頷く。


「その通り。ただし、標準仕様のままじゃ暴徒の火器攻撃には耐えられないし、実戦の射撃精度にも不安があった。だから、僕の手で大幅な強化改造を施したんだ」


僕は指を一本ずつ立てながら、具体的な改修点を挙げていった。


「まず足回りとシャーシの剛性を大幅に強化し、車体全周に耐弾・耐熱の複合増加装甲を追加した。重量は増したけれど、大容量バッテリーと高出力モーターへの換装で機動力はむしろ向上している。そして上部には、リモートタレット型の小口径アサルトライフルと散弾ユニットを増設した。制御系にはジェミニが調整した軍事級の戦闘演算AIを組み込んであるから、暗闇やスモークの中でもターゲットを正確に補滅・誘導できる」


『完璧な自律型センチネルの完成ってわけね! 迷路階層に侵入した悪質者には、容赦ない弾幕をお見舞いできるわ!』


「それと、あっちの作業エリアで動いているヒューマノイドたちもね」


僕が視線を向けると、人型ロボット数台が手際よくドライバーや溶接機を扱い、予備パーツの整理やロボットの整備を行っていた。


「市販の汎用作業用ヒューマノイドロボットだけど、こちらも関節アクチュエータの強化と制御AIの最適化を行って、ロボット全体の改造やメンテナンス、重い資材の移動を担当させる作業要員としてアップグレードした。これで万が一、セキュリティロボットが損傷しても、地下5階のファームハウスに僕たちがこもったまま、自動で修理と再配備が完結するシステムが整ったよ」


「素晴らしい手腕です、マスター。ハードウェアとAIの完璧な融合……これならば、地上の混乱がどれほど深まろうとも、この箱舟が破られることはございません」


アリタが心からの敬意を込めて微笑み、頭を下げた。


地上ではK字型経済の崩壊と激化する暴動によって秩序が失われつつある中、僕たちの地下要塞は、防衛メカニズムと完璧な自動整備体制を備えた「絶対の聖域」として、静かにその完成の時を迎えていた。



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