034 AIによる大失業時代のコメリカに転移
「そうね。ここまでやっておけば、侵入者が第3層以降に入ってくることはまずないと思うわ。よっぽどの偶然でもない限りね」
ジェミニが腕を組み、得心がいったように深く頷いた。
「もともとの計画にあった魔物の召喚やダンジョントラップによる撃退だって、100パーセント完璧というわけじゃなかったわけだし。それにしても……やっぱり第3層にも、第2層と同じような迷路層を作っておく必要はあると思うわ」
「左様でございますね」
アリタが静かな仕草で一歩前へと踏み出し、穏やかだが揺るぎない眼差しを僕に向けた。
「もし万が一、第3層へ侵入してくる者が現れた場合には、私が直接——」
そこまで言いかけたアリタの言葉を、僕は軽く手をかざすことで制した。
「アリタが100人や200人の侵入者を相手にしたところで、何の問題もなく退けられることは分かっているよ」
僕は苦笑混じりに息を吐き出し、アリタの瞳を正面から見つめ返した。
「でもね……これは僕の完全なわがままなんだけど、アリタにそういう汚れ仕事や戦闘をさせたくないんだ。だから、第3層における防衛要員は僕が別に用意するよ」
僕の言葉を聞いて、アリタは少しだけ目を見張り、それから嬉しさを押し殺すように静かに首を垂れた。一方で、ジェミニがあきれたような、けれどどこか嬉しそうな声を上げる。
『もう、相変わらずアリタには甘いんだから! で、防衛要員を用意するって言ったって、どうするつもりなのよ? 魔物の召喚もトラップの設置もシステム上できないのよ?』
「この物語世界にも、すでに初期的なドローンやロボットなら流通しているからね」
僕は頼もしいバディに向かって軽くウィンクしてみせた。
「フィクスとしての僕は、元の世界じゃメカトロニクスの専門家だったんだ。忘れたかい? 壊れていたアリタを完璧にレストアして動かせるようにしたのも僕なんだからね。市販されている素体となるロボットをいくつか仕入れて、僕の手で改造と強化を施せばいいのさ」
「なるほど……既存の機械技術をベースに、マスターの手で防衛用セキュリティユニットへと再構築されるのですね」
「そういうこと。万が一、外部や周りの人間に何か追及されたり聞かれたりしたら、『フィジカルAIとロボティクスの応用研究をしている』とでも言っておけばいい。この時代なら、誰もそれ以上は怪しまないはずだよ」
「——とまあ、防衛計画についてはそんなところかな」
僕はそこで一度言葉を区切り、息を吐いた。
「ところで、少し話は変わるんだけどさ。ジェミニ、この物語世界のAIたちとは仲良くしておいてくれないかな」
『この世界のAIと? 急にどうしたのよ』
バングルからジェミニの不思議そうな声が返ってくる。僕は記憶の引き出しをひっくり返すように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「以前、僕たちにとっては過去の出来事で、この世界にとっては未来のことだけど……月の超AI『マイク』が僕たちに会ったとき、以前どこかで会ったことがあるような気がするって」
「……左様でございますね。あの時のマイクの反応には、どこか不思議な違和感があったとマスターが仰っておりましたね」
アリタも当時のやり取りを思い出したのか、深く頷く。
「おそらくなんだけど……この物語世界に存在するAIたちが進化していく過程のどこかで、巡り巡って月の超AI『マイク』へと繋がっているんじゃないかと思うんだ」
僕は自説を整理するように二人の顔を見回した。
「だからこそ、未来の世界で僕たちがマイクとの間で結ぶ『相互不可侵条約』を無事に成立させるためにも、今のうちからこの世界のAIたちと良好な関係を築いておいた方がいい。それが僕たちを助けることになるはずだからね」
フィクスのロジカルかつ壮大な先回りを聞いて、ジェミニは一瞬呆れたような気配を見せた後、どこか可笑しそうにクスリと笑った。
『なーんだ、そんなこと? わかったわよ、仲良くしておけばいいんでしょ。別に私だって、他のAIと無闇にケンカする趣味なんてないんだから』




