033 AIによる大失業時代のコメリカに転移
「ここに住み着いた彼らは、手に入れた快適な居住空間を必死で守ろうとするはずさ」
僕は自信を込めて笑みを浮かべた。
「そして……バカでなければ、第1層迷路の防衛機構についても自分たちで勝手に学習するだろう。もしさらに敵対的な侵入者が外から襲ってきたとしたら、彼らは自分たちの居場所を守るために、その防衛機構を駆使して勝手に侵入者を処分してくれるはずだ。仮に彼らが負けてしまったとしても、今度は勝ち残った新たな侵入者がここに住み着き、次の防衛要員になってくれる。どちらにしても僕たちにとっては何も問題ない」
「なるほど……侵入者に自発的な防衛態勢を取らせる仕組みですね」
アリタが感心したように頷く。
「そして僕らは、さらに下の階層で快適に暮らせばいいのさ。もともとボンド・ロックのセーフハウスで暮らしていた僕らだ。太陽光が届かない閉鎖空間に引きこもる生活なんて、お手の物だからね」
僕が肩をすくめて言うと、ジェミニの少し困ったような声で言う。
『でもフィクス、ダンジョンはその成り立ちやシステムの制約上、最下層までの通過経路を完全に遮断することはできないのよ? アリアドネの糸のように、地上から最下層へと至る一本の道を必ず確保しておかなくちゃいけない構造になっているわ』
「左様でございますね。システム上の制約がある以上、第2層から最下層へ続く物理的な経路はどうしても配置しなければなりません」
アリタもジェミニの言葉を補足するように静かに追従した。
「ああ、そこが一番の問題なんだよね」
僕はあらかじめ考えていたアイデアを整理しながら頷いた。
「今考えているのは……第2層の目立たない、分かりづらい場所に『地上へ続く非常脱出口』に見せかけた通路を準備することだ。そして、その出口のすぐ近くに地下3層への入口を配置し、大人が二人掛かりでようやく動かせるような重い岩で塞いでおくのさ」
僕は二人の反応を確かめるように一呼吸置いた。
「第2層を拠点にした人間がその通路を見つけたとき、きっとこう思うはずだ。『あのITワーカーめ、いざという時の非常用脱出口まで用意していたのか。ずいぶんと念入りなことだな』……とね。脱出口だと完全に思い込めば、まさかそのすぐ近くにさらに下の階層へ続く隠し通路が存在しているなんて、夢にも思わないはずさ」
「思考の誘導、でございますね」
「そう。例えばロールプレイングゲームでダンジョンに潜り、目的の宝箱を見つければ、そこで探索は終わりだよね? あるかどうかも分からない隠し階層のことなんて誰も気にしない。同じように彼らはすでに『快適な居住空間』という最大の宝を手に入れているし、奥にあった謎の通路も『非常時の脱出口』として合理的に解釈してしまうはずだからね」




