031 AIによる大失業時代のコメリカに転移
翌朝。僕たち3人は、前日に引き続き掘削と拡張を進めているダンジョンの地下1階にいた。削り出されたばかりのひんやりとした無機質な岩肌が、照明の明かりを鈍く反射している。
「本格的に計画を立て直す前に、ジェミニにいくつか確認しておきたいことがあるんだ」
僕は壁際で腕を組み、青いホログラムを浮かべたバディに向かって語りかけた。
「細かく計画を組み上げた後になってから『やっぱりできませんでした』となると、時間もマナも無駄になってしまうからね」
『ふむふむ、何でも聞いてちょうだい! データベースは万全よ』
「まず、予定していた地下3階のような『氷結層』は作れそうかい?」
僕が問いかけると、ジェミニは空中で青い指先を顎にあて、少しの間思考を巡らせた。
『……んー、空間全体を氷点下に保つ冷気生成と局所的な空間固定ね。少し計算してみたけれど、大丈夫、できそうだわ! トラップや魔物召喚と違って、純粋な自然環境要素の魔法的制御ならプロテクトにも弾かれないみたい』
「よかった。じゃあ、階層の一部分に『溶岩のパート』を作ることはできるかい?」
『溶岩のパートね……熱源の生成と耐熱隔壁の構築なら、これも少し考えれば……うん、できそうだわ! 氷結層と同じで環境操作の範疇だから問題なく形成できるわよ』
「ありがとう。環境要素なら拒絶されないと分かって安心したよ。それじゃあ……もうひとつ確認したい」
僕は手元のメモ端末に、日本の伝統的な城郭における防衛機構の図面を映し出した 。
「日本の城には、進入してきた敵の勢いを削いで足止めし、効率よく迎撃するための高度な防衛機構が備わっているんだ」
僕は画面を示しながら、それぞれの構造を説明した。
**虎口:** 通路をS字やL字に折り曲げる喰違虎口や、門と門の間に四角い広場を作って足止めする枡形虎口など、敵を一直線に侵入させない出入口 。
**武者溜り(むしゃだまり):** 外からは見えない位置に設けられた、将兵の待機・集結広場 。
**武者走り(むしゃばしり):** 守備側が裏手から迅速かつスムーズに移動するための兵士用通路 。
**狭間:** 外からは狙いにくく内側から射撃しやすい、壁面の小窓 。
**出窓:** 壁面から突き出し、側防射撃や真下の敵を叩くための構造。
**大曲:** 通路を大きく曲がりくねらせ、見通しを遮って侵入者の視界と勢いを奪う構え。
「魔法の罠や魔物召喚が使えないなら、こうした純粋な土木・建築構造による『日本の城の防衛機構』を迷路層の作成に組み込むことは可能かい?」
説明を聞き終えたジェミニは、青い瞳を輝かせて即座に頷いた。
『もちろん、できるわ! 魔法的な自動トラップがダメでも、空間の形状そのものを工夫する土木工事なら私の得意分野よ。完璧な城郭構造の迷路を造り変えてみせるわ!』
二人のやり取りを横で静かに聞いていたアリタが、すっと前に出て僕を見つめた。
「……マスター。ひとつ確認させていただいてもよろしいでしょうか。その複雑な城郭防衛機構を構築し、私たち3人で侵入者を撃退する、というお考えなのでしょうか?」
「いや、違うよ。防衛要員を雇うのさ」
僕がさらりとそう告げた瞬間、室内の空気がぴたりと止まった。
『えっ……!? 私たち3人以外を……新しく仲間にするの……?』
ジェミニが露骨に不満そうな表情を浮かべ、ホログラムの眉をキュッとひそめた。普段は感情を崩さないアリタも、どこか面白くなさそうに唇をかすかに引き結び、静かな圧力を伴う視線を僕に向けている。
突然の「第三者の介入」の示唆に、二人揃ってあからさまな不満を隠そうともしない。
僕は思わずくすりと笑みをこぼし、二人を交互に見やった。
「ふふ、そんなに不満そうな顔をしないでくれよ。もちろん、僕たちの秘密を脅かすような見知らぬ人間を仲間にするつもりなんてないさ。……よし、ちゃんとこれから、僕が考えている本当の計画について説明するよ」
岩肌に囲まれた地下空間で、僕たちの新たな防衛構想と「仲間」を巡る作戦会議が、いよいよ本格的に始まろうとしていた。




