028 AIによる大失業時代のコメリカに転移
引っ越してきた翌朝。
カーテンの微かな隙間から差し込む柔らかく澄んだ朝の光と共に、僕は目を覚ました。
ベッドから起き上がると、まずは気持ち良く風を通すように寝具をさっと整え、手早く身支度を済ませてから1階のダイニングへと向かった。
ダイニングでは、すでにアリタが準備してくれた香ばしいブレックファストがテーブルに並べられていた。修復を終えて深みのあるオイルフィニッシュの光沢を放つオーク材の大型テーブルを囲み、僕たち3人は和やかに朝食を共にした。
食後、マグカップを手にしてリビングの革張りソファへと移動する。アリタが丁寧に淹れてくれた出来立ての浅煎りコーヒーから、甘くフルーティな香りが心地よく漂っていた。
僕は温かいカップを両手で包み込み、一口含んで爽やかな酸味を味わった後、ゆっくりと切り出した。
「……さて。もう二人とも分かっていると思うけれど、このファームハウスの地下に、僕たちの『箱舟』となるダンジョンを作りたいんだ。……できるよね?」
僕が問いかけると、左手首のバングルからすっと青い光が溢れ出し、美しく可憐な女神のホログラム——ジェミニが空中に舞い降りた。
『ふふん! 簡単なことよ! 私は誰だと思っているのよ? 今はマスターの15億マナポイント(mp)のおかげで超知性になっているけれど、元はダンジョンコアなのよ!』
ジェミニは得意げに胸を張り、宙でくるりと旋回してみせた。
「頼もしいね、ジェミニ。……ただ、僕が持っているこの15億mpのマナは、年3%の複利で増えてはいるけれど、万能の無制限というわけじゃない。ジェミニの超知性やアリタを稼働させるためのエネルギーとしても消費しているし、これからダンジョンが本格的に稼働してからは、その空間を維持するためのエネルギーとしても使わなければならないんだからね」
僕はコーヒーカップをローテーブルに置き、二人をまっすぐに見つめた。
「だからこそ、元本の15億mpを割り込まないように、計画的に使っていきたいんだ。社会の混乱が本格化する第3フェーズが始まるのは、2030年代後半だからね。それまでに少しずつ、計画的にダンジョンを広げていけばいいと思うんだ。どうかな?」
僕の言葉に、壁際で静かに控えていたアリタが美しい動作で深々と頭を下げた。
「マスターのご判断は極めて合理的でございます。元本を維持したまま、年3%の増殖分と維持コストの収支を最適化しながら施工を進めるスキームであれば、リソースの枯渇リスクはゼロに抑えられます」
『そうね! 急激に広げてエネルギーを浪費するより、年数の猶予を活かしてサイレント施工で堅実かつ拡張性の高いダンジョンを築いていく方がスマートだわ!』
「よし、決まりだね。それじゃあ……僕たちの『箱舟』づくりの第1期工事計画、さっそく取りかかろうか」
秋の柔らかな日差しが差し込むリビングで、僕たちの未来に向けた密やかな、しかし確かな一歩が踏み出されたのだった。




